かつて筆者は、著作にて死人村の伝説を紹介した。
土葬の習慣が昭和の初期まであった某山村に迷い込んだ青年が、深夜大勢の死人から襲われるという都市伝説であった。
その後、とある人物から一通のメールが届いた。死人村伝説の第二章である。
「山口敏太郎さま、私が20数年前に体験した奇怪な体験を聞いてください」
メールはそんな一文から始まっていた。体験者の名前を仮に山田さんとしておく。昭和の末期、大学受験に失敗した山田さんは、リックサックひとつで全国を廻っていた。
追い詰められた自分を解放するため、もっと自分の未来を明確にするため、彼は日本一周を思いついたのである。旅の間には、様々な事があったが、その経験のひとつひとつが彼を大人へと成長させた。
「こうやって、旅をしていると自分の悩みが小さく思えてくるな」
山田さんは、天高く広がる青空に向かって大きく深呼吸する。あのスモッグに覆われた東京で、受験勉強に思い悩む日々が、ちっぽけに見えてきていた。
「ようし、中仙道を歩いてみよう」
北海道、東北を走破した彼は、今度の目標を中仙道にすえた。快調に歩みを進める山田さん。そんな彼が、中部地方の某山岳地域を走破中の事である。
「うひゃ、困ったな」
山道を歩いていた山田さんに突然の雷雨が襲い掛かる。疲労の蓄積する体に、痛いほど強く雨粒が打ち付けてくる。体温が奪われ、段々と筋肉が硬直してきた。このまま歩くのは危険である、しかし、この辺りには人家も雨宿りする場所もない。
「しまった、余計な冒険心を起こしたのが失敗だった」
数時間前、彼は道端で出会った老人にこんな話を聞いたのだ。
「この街道からでる脇道に、隠れ里への道がある、隠れ里から何か品物をもらってくると幸せになれると言われておる」
この話は、受験の失敗で傷ついた山田さんにとって魅力的であった。幸せになれるだって、まさかこの昭和の時代に隠れ里があるとも思えないが、話の種に行ってみるとするか。
彼は迷うことなく、山奥に繋がる脇道に歩みを進めたのだ。だがこの道が悪路であった。ほとんど人が通った跡がなく、もう何年も使われてないことは明確であった。その悪路に、足がつり、筋肉がこわばったところにこの雨だ。
「もう限界だ、このままだとマジで遭難する」
その時、山田さんは背後の茂みに何かの気配を感じた。
「ガサガサ」
確かに茂みの中で移動する音がする。何か動物かと思ったが、かなり大きい影が数匹見え隠れする。まるで、獲物を狙う狼のようだ。
「狼? まさか、どちらにしろ、早く休める場所を見つけないと」
フラフラになった彼は、前方に明かりを発見した。目を凝らすと、廃屋のようなボロ家に灯りがついている。
助かった、山小屋か炭焼き小屋があるのだろう。彼はもう這いずるように歩き、その小屋に転がり込んだ。
「すいません、この雷雨にあってしまい、もう一歩も歩けません」
ドアを開けると同時にへたり込む山田さん。彼の目前には、がりがりに痩せた地味な少女がいた。人見知りするのか、はにかみながら彼女は応対した。
「大丈夫ですか、食べ物も何もありませんが、屋根裏なら休む場所もあります」
少女は一杯の水を差し出した。山田さんは貪るように水を飲むと礼を言った。
「ありがとう、おかげで助かりました」
山田さんは、人形のようなやさしい少女の顔が気になった。まるで、昔の映画に出てきそうなレトロな服を着ている。なんて、奇麗な子なんだ。彼はしばし、呆然としたが、彼女に屋根裏に促され、屋根裏に干された藁の中で睡眠に落ちていった。何時間経ったのであろうか。山田さんは階下の言い争う声に目を覚ました。
「おい、さっきの男をだせ」
「隠し立てすると、おまえも引き裂くぞ」
野太い男の声が、少女を脅かしていた。いかん、このままでは暴力を振るわれる。山の住民が余所者の私をとがめたのであろうか。山田さんは、梯子を途中まで降り、大声どなった。
「私に用があるんですか」
その時、階下の人々の姿がはっきりと見えた。目玉がだらりと飛び出し、口が裂けている人。頭部が腐りはて、半分しかない人。両手が腐り、中から骨が飛び出ている人。そんな連中が彼女を責め立てていたのだ。
「うわっ、なんだおまえらは」
山田さんは、驚きのあまり梯子から落ちそうになった。すると、少女は梯子を駆け上ってきた。
「早く逃げてください、あの人たちは死者です、貴方の肉が食いたいなんて言ってるんです」
彼は仰天した、震える手でどうにか梯子を上ると彼女に手をのばした。
「あんな化け物といたら貴方も危ない」
山田さんは彼女を上に引き上げた。その刹那、少女の顔が幾分嬉しそうになった。すると、梯子をあの化け物どもが登ってくるのがわかった。
「早く、食わせろ」
わけのわからないことを言って、登ってくる。
「ちくしょ、これでもくらえ」
彼と少女は、屋根裏にあった棒切れや板切れで、化け物どもを叩き落した。化け物どもは、悲鳴をあげて落下するのだが、何度も何度も大勢の化け物が登ってくる。
「くるな、くるな」
必死に戦う山田さんと少女。既に数時間化け物と戦った二人、だがもはや棒も板切れも折れてしまい手元には武器はなかった。しまった、これでは防ぎきれない。彼がそう思った瞬間、数人死者が梯子を駆け上がってきた。その瞬間、少女が死者の前に立ちふさがった。
「やめて、この人は悪くない」
山田さんは、この言葉を聞きながら屋根裏の窓の隙間から明かりが出ているのがわかった。
「よし、これだ」
彼は勢いよくこの窓を打ち破った。朝の灯りが、屋根裏に差し込んだ。
「これで、死者は何もできないだろう」
笑って振る向いた彼は、自分の目を疑った。屋根裏には自分ひとりしかいなかったのだ。呆然としながら、梯子を降りる山田さん。確かに昨夜、死者を叩き落した棒の切れ端が階下に散乱している。あの体験は確かにあったことなのだ。しかし、少女の姿はどこにもない。
「雷雨と疲労で幻覚を見たというのか」
彼は、ふと階下の机の上にある写真に目がいった。古ぼけた写真、それは戦時中の写真であった。そこにはもんぺを履いた、あの少女がいた。あの笑顔のまんまで。
なお、ATLASでは村に関する都市伝説として、「黒い雪に覆われるシベリアの村」「いけるはずのない村・八ヶ岳村」「零戦がそのまま残る・大日本帝国村」「男児がいない村、男児が生まれたら奇形児である確率大の村」「自らの体を切り刻む村・指切り村」「動物の霊をおろす村・岐阜県に存在するカワサキ村」「130歳を超えるスーパー長寿が続々、長寿村」「新潟に存在した!?男を返してくれない女人村」「弓矢を呪う村 」「世界で1番寒い村・ロシアサハ共和国」「1000人を庇い処刑された「おろくにん様」の伝説のある村」「獣少女がいるタワクーン村 」「入ったら出ることができないラビリンズ村」「足を踏み入れてはならない呪いの村」「村系都市伝説 前編」「村系都市伝説 後編」「アフリカ都市伝説、いかりや長介村がある 」などのアーカイブが人気である。