古い怪談としてタイトルだけが伝承されているものに「牛の首」というものがある。過去に山口敏太郎としても何度もこの「牛の首」についてのコラムを執筆している。
あまりにも怖すぎて、語るものが誰もいなくなったと言う設定で「牛の首」は都市伝説として語られている。一説には、聞いたものが必ず失神してしまうとか、数日のうちに命を落としてしまうとも言われている。
「牛の首」と言うと、中国の神話上のキャラクター「神農」との関係がうかがえる。「神農」は首から上が牛であり、体が人間と言う姿をしている。さらに、現代妖怪「牛女」との関係も気になるところだ。「牛女」は六甲山に住んでいると言われた顔が牛の女であり、醜い姿のために座敷牢に監禁され、長い間外に出ることができなかったが、火災(太平洋戦争の米軍による空襲と言う説もある)により外に逃げ出し、人間社会への復讐を誓っているという設定である。ちなみに、ビジュアル的には妖怪「くだん」とは逆パターンになる。
興味深いことだが、牛に関係した妖怪は災害や天災の前触れと言われることが多い。「牛女」「くだん」共にその出現は、戦争や天変地異の予言であると言われている。
その辺を踏まえて考えると、怪談「牛の首」とは次のような話ではないかと言われている。江戸時代、飢饉に陥った村において兄弟や親子でも食料の奪い合いをする状態となった。命を落とす者も後を絶たず、村人が全員餓死してしまうのも時間の問題となった。そこで牛の首を人間にかぶせ、牛として見立てて撲殺し、その肉を食ったとされているのだ。
もちろん、これは山口敏太郎の推理であり、怪談「牛の首」の話がこの話だとは断定はできない。違うストーリーである可能性も残されている。また、最初からタイトルと怖すぎて語ることができないという設定しかなく、初期設定の頃からストーリーがなかった可能性もある。
フォークロアを考える事は非常に面白いことだ。
なお、ATLASではいままでに何度か牛女を題材にしたアーカイブがある。六甲山の牛女は3種類、心霊スポット扱いされたお寺が対策「牛女は引っ越しました」 、六甲山の妖怪「ハッスルじいさん」「牛女」 、牛女の暗示、新潟北陸地震、「牛女」が金沢で目撃された、大震災の前兆、「牛女」を見た人々、牛は地磁気を感知して地震を予知する、熊本で広がる「牛女」の噂、などである。
(山口敏太郎 ミステリーニュースステーション・アトラス編集部)
画像©PIXABAY