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「母をたずねて三千里」が韓国で三万里に変更されているその理由とは

母をたずねて三千里は、フジテレビ世界名作劇場にて1976年に放送されたアニメ作品。

イタリアに住むマルコという少年が、南米アルゼンチンへ出稼ぎに行った母からの音信が途絶えたことによって、母親を探しに旅立ち、多くの危機や苦難を乗り越えるストーリーだ。

この物語は、作家であるエドモンド・デ・アミーチスの『クオーレ』での劇中劇『アペニン山脈からアンデス山脈まで』を原作としている。アミーチスが当時18世紀のイタリア統一運動に関心を持っていたこともあり、原作は愛国心的な要素が非常に色濃く残っている。

本来は劇中劇ということもあり、原作の長さでは1年の放送期間を埋めることが不可能であったため、オリジナルストーリーを挿入、また原作には登場しないキャラクターも多い。本家イタリアでもアニメは放送され、「クオーレ」を知らずともアニメだけは見たことあるという人も多いようだ。

余談だが、本編では母が南米へ出稼ぎに行った理由について触れられていないが、時代背景的に当時のアルゼンチンは世界第5位の経済大国とされており、産業革命の進展により人口が爆発した欧州から大量の移民が北・南米へ押し寄せていたという事情がある。おそらく、このことが本作のバックボーンとなっていたものと考えられている。

さて、「母をたずねて三千里」という邦題にある”三千里”というのは、もちろん距離のことを表しているが、1里を約4kmとすれば3000里とは距離にして1万2千kmとなる。この距離は、日本縦断2往復に相当すると言われている。

とは言え、原作ではタイトルにすら登場していないこの三千里という数値は、本編でマルコが移動した距離から割り出したものなどではなく、あくまで「遥か膨大な距離」を表す文学的な表現の一種であると言える。日本語において八千代、八百万のように膨大な数を表わす時に「八」という数字が用いられることは多いが、それと同時に「三」という数字も同様の使われ方で登場する。

その表現は、三日三晩や贅沢三昧あるいは仏教由来の言葉である三千世界といった表現からも見ることができる。つまり、邦題の「母をたずねて三千里」はいわゆる母と出会うまでに1万2千kmを訪ね歩いたということではなく、母の元に到達するまで膨大な距離を渡り歩いたという意味のいわば比喩だろうか。

ところで、「母をたずねて三千里」は海外でも放送されているが、実は韓国ではそのタイトルが10倍の「母をたずねて三万里」と変更されている。ただし、これをもって韓国が日本に対抗して10倍誇張したのだと考えるのは早とちりだ。

実は、元から韓国での里という単位はおよそ420mとなっており、日本の里という単位の10分の1に相当する。大韓帝国時代、メートル法での比較の際、日本の里と朝鮮の里にあまりにも差がありすぎるという事情から一括りにすることができず、日本の1里=韓国の10里との規定がなされたという経緯がある。

言うなれば、韓国における「母をたずねて三万里」というタイトルは、単に日本での三千里という距離を韓国の里の数値に変換させたものだったのだろうか。

もっとも、韓国において「三千里」とは朝鮮半島の長さに相当し、象徴的な言葉として用いられてきた経緯があった。朝鮮は小国ではないことを強調した表現として尊重されていたこともあり、このために「三千里」というタイトルでの使用が意図的に避けたのではないかとも考えられるだろう。

因みに、実際に本編でマルコが出発したジェノバから、最終的に母と再会をする地となるアルゼンチンのトゥクマンまでは距離にしておよそ1万5千kmにもなり、タイトルを大幅に超える移動距離であったようである。

【参考記事・文献】
母を訪ねて三千里
https://www.nishino-law.com/publics/index/22/detail=1/b_id=46/r_id=3521/
「母をたずねて三千里」に関する雑学 マルコの母はなぜアルゼンチンに行ったのか?
https://zatugaku.arafuka1582.com/anime20200921marco/#toc1
「母をたずねて三千里」:マルコの旅の長さは偽りなし
https://iirei.hatenablog.com/entry/20141010/1412935103
OC81.三千里って?(三千里の定義)
https://ameblo.jp/ichigayasongho/entry-12641351847.html

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【文 ナオキ・コムロ】

画像『母をたずねて三千里 (絵本アニメ世界名作劇場)