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食べ過ぎ用心!すっぽんの恨みか呪いか、「すっぽんの幽霊」奇談

カメ目スッポン科に分類されるすっぽんは、日本の各所の池や沼地に生息している非常になじみの深い生物の一つである。縄文・弥生時代の遺跡からも出土されているほど古くから利用されており、食材として食されることも多い。

かつて江戸時代には、痔疾に効く滋養強壮の食材としてすっぽんが売られていたが、一方で地域によっては幽霊や妖怪として伝承されることも多い。

越後の文人である橘崑崙(たちばなこんろん)の著書『北越奇談』には、すっぽんで繁盛していたある商店の主人とその女房が、あまりに多くのすっぽんを殺したためにすっぽんの悪夢にうなされてしまい、苦しんだ末にとうとう店を畳んだところすっかり悪夢を見ることがなくなったという話が記されている。

江戸時代中期の儒学者である清田儋叟(せいたたんそう)の『孔雀楼文集』にも、すっぽんにまつわる話がおさめられている。伏見に住みすっぽんを捕えて売ることを生業にしていたある男が、河原ですっぽんをさばいていると誤って包丁を水中に落としてしまい、これから料理しようとしていたスッポンに「包丁を取ってきてくれたら命は助けてやろう」と言った。

すっぽんはそれに従い見事包丁を取ってきたが、男は約束を破ってそのすっぽんを料理し客人にもてなした。すると、そのスッポンの料理を食べた客人は数日後に精神に変調をきたしたちまち悶死してしまったのだという。この話は、すっぽんの恨み怨念のたぐいとして伝わるという。

そして、妖怪の中にはその名もずばり「すっぽんの幽霊」と呼ばれるものがある。水木しげるの『日本妖怪大全』によれば、ある人物がすっぽんを買いにすっぽん屋を訪れたところ、すっぽんのような顔に、脚が異様に長い幽霊を目撃して逃げ、それ以来怖くなりすっぽんを食べなくなったという。

本書ではそれ以上のことは述べられていないものの、名古屋に伝わるすっぽんの怪談に、行先の店ですっぽんを毎日のように食べていた男が、ある時すっぽんに取りつかれてしまい、顔や手足がすっぽんのようになってしまったという話が残されており、この話が元になっているものと考えられる。

人間がすっぽんの姿になってしまうという伝承は、1796年に出版された『怪談旅之曙』には、とあるすっぽん売りが祟られてしまい、生まれてきた子供がすっぽんのようにとがった口先に水かきのある手足を持っていたという奇談も掲載されている。

すっぽんは食いついたら離さないという習性がよく知られているが、そうした様がすっぽんを執念深い存在として捉えられ、死してなお執拗に恨み憑りつくということで幽霊・妖怪のたぐいとしても伝わって来たであろうことは想像に難くない。

それも、すっぽんを捕えたり料理したりという商売人絡みにすっぽんの奇談が伴っているのは、特徴的であると言えるだろう。すっぽんが特に幽霊・妖怪として扱われたのは、当時からすっぽんが高級食材・料理として捉えられていたことから、それを生業にして繁盛する者や食すことができるほどに懐に余裕を持った者に対する嫉妬めいた感情も、すっぽんが怪異を引き起こし彼らをこらしめるようなイメージが作られたのかもしれない。

【参考記事・文献】
水木しげる『日本妖怪大全』
水木しげる『日本妖怪図鑑』
村上健司『妖怪事典』

妖怪「スッポン」の伝承・正体|呪いが怖い…
https://ayakashi-web.com/mizu/suppon.html
ゆっぽんの幽霊
https://misarin.net/youkai/frame/honbun/102309.htm

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【文 黒蠍けいすけ】

画像 ウィキペディアより引用