金田一耕助は、推理作家である横溝正史が生み出した、作中に登場する探偵。
江戸川乱歩の明智小五郎と並ぶ日本で最もよく知られる探偵の一人であり、映像化によって多くの役者たちによって演じられてきた。フケ症でボサボサの頭髪に貧相な体躯、お釜帽をかぶるその衣類はシワだらけの着物と羽織という、独特の容姿で知られている。
ドラマや映画などの映像化によって金田一を演じた役者は非常に多い。一部列挙するだけでも、中尾彬、石坂浩二、西田敏行、渥美清、古谷一行、役所広司、片岡鶴太郎、豊川悦司、稲垣吾郎などがいる。コントではあるが、『8時だョ!全員集合』では志村けんが扮したこともあった。
1940年代から60年代にかけて製作されていた『片岡千恵蔵の金田一耕助シリーズ』では、その名の通り片岡千恵蔵が主演をつとめていたが、そこではソフト帽にネクタイをつけトレンチコートを羽織る洋装の金田一耕助となっており、初期の金田一イメージはこの風貌が根強かったと言われている。なお、このシリーズの設定を踏襲した1971年版『悪魔の手毬唄』では、オープンカーに乗りサングラスをかけてジャケット姿の金田一を高倉健が演じている。
この金田一、実は麻薬中毒者だったという設定がある。
『病院坂の首縊りの家』によれば、彼が若い頃、世界大恐慌真っただ中の時代にアメリカを放浪していた際、好奇心から麻薬に手を出して中毒者となってしまったという。『本陣殺人事件』にも、「麻薬も結局大したことはありませんからな」とつぶやいているシーンがあるが、この時点ではすでにその悪習を絶ったようである。
この金田一麻薬中毒者という設定は、あのコナン・ドイルの生んだシャーロック・ホームズが薬物中毒であったという設定に倣い、作者の横溝が付与したものであると言われている。その一方で金田一は、酒やギャンブルを好んでいなかったようである。女性関係に至っては、好意を寄せた人物は作中にてたった2度、しかもいずれも悲恋に終わっている。逆に、ヘビースモーカーではあったようだ。
印象として、清潔感があまり感じられない、まともな生活を送っているようには思えない金田一であるが、不思議なことに年月が経過しても見た目がほとんど変わらず、等々力警部ですら「相変わらず老けないねぇ金田一さんは」と茶化すシーンすらある。解決まで20年の時間を費やした前述の「病院坂」の中にあることからも、老けないということの奇妙さが一層際立つだろう。
これは、ファンによる「金田一に年を取らせないで欲しい」といった懇願に起因していると言われ、それを受けていつまでも書生の雰囲気であるようにという横溝自身の計らいだったようだ。
金田一作品は、金田一から事件の話を聞いたY先生が事件の話を綴るという体裁をとっているが、この老けない金田一についてはこのY先生も、60近いだろうが30代にしか見えないといった言及していたことがある。
ところで、金田一耕助といえば「金田一少年の事件簿」に登場する高校生・金田一一との関係がよく議論にあがる。作中において結婚し、しかも子供が生まれたといった情報が皆無であるにも関わらず、孫が存在するというのはおかしいのではないか、という疑問は確かにファンからすれば真っ当なものだろう。
ここでは、検証そのものは省く。ただし、金田一耕助の孫が登場した作品というのは、実は金田一少年だけではない。
『金田一耕助に捧ぐ九つの狂想曲』(2012)というパスティーシュ・アンソロジーでは、赤川次郎によって金田一耕助とその孫、そして金田一耕助の息子を偽証する人物が登場する「闇夜にカラスが散歩する」という作品が掲載されている。
このほか、吉村達也の作品にも、金田一耕助の孫が登場するものがあるという。いずれにせよ、オマージュやパロディなどは、原作があってこそ楽しまれるものであるため、それだけ有名キャラクターの子孫という設定は、読者を魅了するのだろう。
【参考記事・文献】
・https://dic.pixiv.net/a/%E9%87%91%E7%94%B0%E4%B8%80%E8%80%95%E5%8A%A9
・https://togetter.com/li/489493
・https://trivia.az-arte.com/9059/
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【文 ナオキ・コムロ】
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