伝説の映画『エマニエル夫人』　日本公開は修正だらけ！ヘア解禁版はパリツアーで

『エマニエル夫人』(または「エマニュエル夫人」)は、1974年に公開されたフランスの映画である。

フランスの女性作家・エマニュエル・アルサンの小説を映画化した作品であり、当時20歳であった主演のシルビア・クリステルは、この映画によって世界的な名声を得た。

本作は、タイのバンコクを舞台に外交官の妻エマニエルを主人公としている。実は、作者であるアルサンは、タイのバンコク生まれであり、16歳でフランスの外交官を結婚するという経歴を持っている。そもそもエマシュエル・アルサンはペンネームであるとはいえ、この作中でのエマニエルの設定と多く一致している。

だが、自身を作中の登場人物に投影したものであるかといった事情は一切語られていない。

全編を通して性的な描写のオンパレードであり、また女性視点からの性への追求の物語となっていることから、それまで男性向けとしか捉えられていなかったポルノに女性向けという新たな方向性を広める作品となった。

当時の映画は、現在のようにいくつかの年齢に指定が配置されておらず、グロ映画のレイティングもなされているわけではなかった。「一般映画」「大人向け映画」という2種類しかなかった。

しかし、大まかとは言えそのような区分があったにもかかわらず、なぜか本作は「一般映画」として公開された。とは言え、内容が内容であったため、日本で公開された際にはほとんどがボカシだらけ、かつやたらに場面が飛び飛びだったり同じシーンが繰り返されたりとカットの嵐だったという。

一方で、映画そのものは主に女性層からの支持が圧倒的に高かったのも事実であり、映画館には女性客の列ができるほどだったという。これについては、映画元がフランスだったということによる、「お洒落なポルノ」ということで映像美も魅力的であったためだと考えられている。

実際、映画としては比較的低予算での制作ではあったとのことだが、主演のシルビアがトップモデルであったことや、監督のジュスト・ジャカンがファッション誌のカメラマンであったということが、映画というよりは煌びやかなファッション雑誌という感性の延長で画面が作られたというのが、女性を魅了する要因の一つだとも言われる。

映画の観覧については、あまりにも女性客だらけであったということから、男性が入場するのをためらい、カップルでも入りずらいという事態となり、かと思えば女性一人だけでの入場にも多少の勇気があったという。そのため、女性数人のグループでの入場が多かったという。

前述したように、カットやボカシだらけでの日本公開ということもあり、じかにパリへ行き、無修正版の「エマニエル夫人」を観るというツアーまで行なわれた。当時の読売新聞によれば「ファッション関係者」や「観光OL」も多かったとのこと。

本作が社会的に与えた影響はあまりにも大きい。大人気となった作品の宿命であろうが、「エマニエル夫人」というタイトルを模した便乗映画も多く作られた。『東京エマニエル夫人』『東京ディープスロート夫人』『五月みどりのかまきり夫人の告白』など、1975年だけでもこれだけのものがあった。

また、エマニエル夫人が足を組んで籐椅子に座るという象徴的なシーンから、正式にはクランピーコック・チェアというこの椅子が「エマニエル・チェア」という俗称で呼ばれるようになった。さらには、この映画以降レコードジャケットの中でこのエマニエル・チェアが使われることも増え、沢たまき「さすらい」や、内山田洋とクールファイブの「そして、神戸」、松崎しげるの「マイ・ラブ」などのジャケットでこの椅子を見ることができる。