キョンシーと言えば、中国に伝わる妖怪の一種として知られている。
死んだ人間が埋葬されずにいると夜中に動き出すと言われ、死んでいるにもかかわらず腐敗し、人間を襲って血を吸うという。ランクのようなものもあり、強力なものは「飛僵」と呼ばれ、空を飛び回ることができると言われている。
キョンシーについては諸説ある。一つには、道教に伝わる魂魄の思想に起因し、人間が死んだ時には魂(こん)は天へ、魄(はく)は地へ戻るが、魄が地へ行かずに体内に留まったままであるとキョンシーになるという。
清代からキョンシーは『聊斎志異』『子不語』『閲微草堂筆記』といった怪奇小説で描かれて、『西遊記』にも白骨夫人というキョンシーが登場している。
特に日本では、1980年代後半に制作された香港映画『霊幻道士』およびその亜流である台湾映画『幽幻道士』が大ヒットしたことでキョンシーが一大ブームとなっており、現代におけるキョンシーのイメージも、コミカルかつアクション性の高いこれらの映画に強く影響されていると言える。
キョンシーと聞いて思い浮かべる姿と言えば、額に札が貼られ、腕を前に伸ばして飛び跳ね、帽子をかぶり袖の長い服を着用している姿だろう。これらにはそれぞれ由来とされるものがあるが、特に注目すべきはその服装とポーズにある。
前記の清王朝時代の官僚の正装のものであり、いわばその時代の死体がたまたまキョンシーとなって登場したというものだ。そして、ポーズについてはより興味深い。
中国国湘西地域では、出稼ぎ先で死んだ労働者の死体を故郷へ運ぶため、道士が術を使って死体を歩かせたという伝承があるというが、この地域には「赶尸」と呼ばれる死体運搬の風習があった。
これは、2本の長い棒状の道具を使って死体の両腕を固定し、それを列の先頭と最後尾の人物が担いで運搬するという方法であり、これが腕を前に伸ばしていることと、ピョンピョンと飛び跳ねているように見えることの由来になっているという。
また、この風習は道教と特別関連しているわけではないとする説もあり、キョンシーは様々な民俗や風習が融合することで、独特の存在と捉えられるようになっていったものであると言えるだろう。
そんな伝承や創作物によって描かれるキョンシーであるが、それが現実に現れたのではないかという記録もあり、中には比較的近年のものもある。
1995年、諸葛亮や劉備などを祀る三国志時代の史跡として知られる四川省の成都武候祠(せいとぶこうし)の近くから、清朝のものとされる3体の死体が発見されたことから事件は始まる。この発見された死体は数日放置されたのちに姿を消してしまった。その後、成都ではキョンシーの目撃が相次ぎ、人民解放軍までが出動し、軍が火炎放射器でキョンシー退治を行なったとも言われている。
また、奇妙なことに、3体の死体が発見された頃から、成都を流れる府南河と呼ばれる川で多数の死体が引き揚げられたものの、なぜかそれらの死体は皆溺死体ではなく焼死体だったという。
これによって、地元では、青城山の九老洞窟に安置されていたキョンシーたちが、武候祠にて死体が発見されたことが引き金となり、長い眠りから覚めて街を襲い出したのではないかと住民たちの間で話題となり、一大騒動へと発展していった。
どうにも不思議な事件ではあるが、一説ではこの騒動は香港映画が解禁されて間もない時期であり、時を同じくしてキョンシー映画が知られるようになったという背景が騒動を大きくした理由の一つではないかと言われている。
また、川から上がった死体は狂犬病に侵された人々だったのではないかとの考察もある。キョンシーを信じて火炎放射を浴びせた軍が、実際に焼いたのは実はキョンシーではなく病人(もしくは誤って焼き殺してしまった人間)であり、それを隠蔽するために川へ捨てたのではないかとのことだ。
【参考記事・文献】
・https://togetter.com/li/2124957
・https://dic.nicovideo.jp/a/%E3%82%AD%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%BC
・https://ameblo.jp/meiji-9nen-umare/entry-12706391476.html
・https://ye-ti.hatenablog.com/entry/2020/04/25/020649
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【文 ZENMAI】