岸惠子は、女優、文筆家として活躍する人物である。『君の名は』とはじめとして『細雪』『悪魔の手毬唄』など数々の映画に出演し、特に3部作であった『君の名は』が大ヒットとなったことで、彼女が務めた主人公・氏家真知子のストールの巻き方が、「真知子巻き」と呼ばれマネる女性が出るほど流行。
1957年、日本を出国してフランス人映画監督であるイヴ・シァンピと結婚(1975年離婚)しており、この挙式には、なんと小説家の川端康成もいた。川端は、イヴの仲人を務めた文豪かつ医師であるジョルジュ・ディアメルと親しい仲であったようだが、岸にとっては小説家希望だった学生時代、耽読していたのが川端の作品であったという。
この時の結婚式は、現地でかなり盛大な形で行なわれており、パリ北郊30キロの谷間にある村役場で、村中の人々を招待して300本ものシャンパンがあけられ三日三晩行なわれたという。その矢先に岸が体調を崩し、当初は軽い風邪だと考え、翌日には見送られる形で3ヶ月に渡る新婚旅行に赴くこととなった。
画像 ウィキペディアより引用
新婚旅行は、「日本とは異なる文化を見せたい」という彼女による壮大なプランの一貫であったが、ある日、身体の異様な重苦しさを感じたことで盲腸の可能性がよぎり、即病院へ運ばれ手術することとなった。病室で横になっていた際は、術後に頭へ乗せられた氷嚢を外してフラッシュをたくパパラッチも現れ、まもなく日本では紙面に「岸惠子のフランス到着後の姿」と題して、病室に寝る姿が意地悪に掲載されるといったこともあったという。
フランスに移住以降は、フランスと日本を行き来する形で仕事をすることが増えていった。市川崑監督作品に多くの出演歴を持っており、横溝正史原作の映画『悪魔の手毬唄』(1977)では、作中の女将役でもあり犯人でもある青池リカ役を演じた。
市川がフランスにいる岸に直接電話をつないでオファーしたことで決まった配役ではあるが、当時「君の名は」などでメロドラマの女王とまで称されていた彼女が連続殺人犯という配役を務めることは、それまでの業を不意にするリスクもあったという。だが、犯人である彼女に対し同情が芽生えるようなその高い演技力は好評を得、これ以降彼女はミステリー作品にも多く出演する。
市川の岸に対する思い入れは強く、「この役はあなたにしかできない」と交渉するために、岸のいるホテルの部屋に直接訪れるということもあった。だが、谷崎潤一郎原作の映画『細雪』(ささめゆき:1983)では、国際電話にて「今度はミスキャストやと思うけど、とりあえず帰ってきて」という普段とは異なる言い回しでのオファーが来たという。
この「細雪」は、メインとなるのが作中における蒔岡家の4人姉妹であり、岸が依頼されたのは長女の鶴子役であった。当初この鶴子役はミス日本初代優勝者としても知られる女優の山本富士子がキャスティングされていたが、山本から断られてしまったため、”仕方なく”岸に声がかかったという。
ただ、実際に撮影現場に入ると、市川からは「着物の着方に生活感があって良い」などとべた褒めの連続であったという。結果として、成功をおさめたこの映画をのちに見た山本は、「引き受けていれば良かった」と悔いていたそうだ。
こうした数々の出演歴を有する彼女であるが、やはり「君の名は」を避けては通れない。1953年に公開された本作は、もともと前年にラジオドラマとして放送されており、「番組が始まると銭湯から女性がいなくなる」とまで言われるほどの人気を博した(この時の真知子役は阿里道子)。
冒頭でも触れた「真知子巻き」であるが、ストールはそもそも肩に巻いてかけるものだ。なぜ、ストールを頭にかぶるあの形になったかというと、美幌峠にて撮影中に雪が降り出したためだったという。予定されていたものではなかったために監督も渋っていたが、その後雪が降り続けてしまったために、仕方なくストールを被ったままで撮影が続行されてしまった。
要するに、アドリブで行なったことが流行ファッションと化したというのが、「真知子巻き」の真相だったというわけだ。
【参考記事・文献】
女優・岸恵子、故・市川崑監督との思い出を語る
https://www.cinematoday.jp/news/N0061710
岸恵子の映画 「悪魔の手毬唄 」 金田一耕助シリーズを市川崑監督が演出した大ヒット作品!
https://ameblo.jp/southerncrossagency/entry-12659430562.html
岸惠子(17)挙式
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO59148290V10C20A5BC8000/?msockid=3655a04134e468092d82b33535c96994
岸惠子が映画『君の名は』でスカーフを「真知子巻き」にしたきかっけは
https://news.1242.com/article/298948
真知子巻き
https://nostalgic-encyclopedia.com/1950s/matiko_maki/
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【文 ZENMAI】
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