江戸時代の絵師、鳥山石燕の「画図百器徒然袋」にて紹介されている妖怪。
行縢とは、狩猟や乗馬の際に用いられていた足を覆う布のことである。絵には笠を手にした旅装束のような無垢行縢の姿が描かれており、以下の文が添えられている。
「赤沢山の露とへきし河津三郎が行縢にやと、夢心におもひぬ」
河津三郎とは、仇討物語として有名な「曽我物語」の曾我十郎・五郎兄弟の父である。彼が工藤祐経に暗殺されたことから曽我兄弟の仇討ストーリーが進行していくことになるのだが、この行縢は河津三郎が暗殺された時に身につけていたものということらしい。
となれば、さぞ河津三郎の怨念が染み付いているものと考えられるが、無垢行縢の表情は名前のとおりに穏やかなものである。
もしかすると、無垢行縢は自分が亡くなった後に立派な武士となるも非業の最期を遂げる息子たちの姿を、無垢な目で陰ながら見守っていたのかもしれない。
(田中尚 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
画像 ウィキペディアより引用