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すべてはアントニオ猪木のために 過激な仕掛人「新間寿」伝説

新日本プロレスの黄金時代、アントニオ猪木の右腕として数々の伝説的な試合を実現させた人物といえば新間寿である。

中央大学の柔道部に所属していた当時、彼は日本橋人形町にあった日本プロレス道場にてボディビル練習生として通っていた中で豊徳と出会い、1966年には豊登が中心となって旗揚げした東京プロレスの立ち上げに携わった。

その際、アントニオ猪木と知り合い、東京プロレス倒産後の1972年に新日本プロレスへ入社、以来長年にわたり猪木のマネージャーとして活動に尽力した。因みに、「過激な仕掛け人」という彼の異名を名付けたのは古館伊知郎であるという。

初代タイガーマスクの誕生を企画したり、大物外国人レスラー不足を補う形でタイガー・ジェット・シンを仕立て上げたりと、数々の功績をのこしているが、彼の最大の功績とも言われているのは、1976年6月に開催された、「アントニオ猪木vsモハメド・アリ」だと言われている。

プロレスの猪木とボクシング世界ヘビー級王者アリとの異種格闘技戦を実現させたこの試合は、現在でこそ試合が行われた6月26日が「世界格闘技の日」に制定されるなど、すべての格闘技における歴史的な一戦として評価されている。しかし、当時は全く逆で酷評の嵐であったという。

それぞれプロレスとボクシングの各ルールを尊重させた新しいルールの構成などなされたが、プロレスとボクシングとでなぜ戦う必要があるのかといった違和感を多くの人が抱いたことも確かであり、また最大の要因が15ラウンド引き分けという形で終わってしまったことにあった。

また、この試合後にはアリ側から未払いのファイトマネー及びペナルティが加えられた、日本円でおよそ90億円もの契約不履行訴訟が起こされていた。しかし、新間はアリのマネージャーであるハーバード・モハメッドのもとへ交渉に向かい、なんと90億円もの訴訟額もチャラにしてもらい、結果として訴訟取り下げに成功した。

もう一つ、1979年8月26日に日本武道館で開催された「夢のオールスター戦」もあげられる。東京スポーツ新聞社20周年記念行事として新日本プロレス、全日本プロレス、国際プロレスの三団体が集まるまさに夢のオールスターと言えるものであったが、それぞれへの交渉に新間が奔走したことが実現につながる大きな役目を果たしたと言われている。新間のそうした行ないは、なによりもアントニオ猪木、そして新日本プロレスのためという一心によってなされていた。

しかし1983年8月、当時猪木が起こしていた事業「アントン・ハイセル」の失敗により膨大な負債を抱えたことにより端を発した新日本プロレスクーデターが発生。テレビ朝日が「猪木が辞めたら放送を打ち切る」と宣言したことでクーデターは未遂となったものの、責任をとる形で新間は新日本プロレスから追放されることになった。

また、彼は「プロレスラー・アントニオ猪木」については一切の悪口を放ったこともないと公言する一方で、「個人としての猪木寛至」に対してはそれと別と見なし、告発もしていた。事実、プライベートにおける猪木は事業の失敗や結婚と離婚の繰り返し、金銭トラブルなどをたびたび起こしており、猪木がスポーツ平和党を立ち上げて以降は、その運営を巡る税金未納疑惑などが追及されるほどに多くのトラブルに見舞われた。新間も袂を分かち、一時は告発本の執筆もしていたという。

2002年には猪木と新間の電撃和解が報じられたが、晩年の猪木は連絡先の消去、いわば絶縁した元関係者が数人おり、その中の一人が新間だったのではないかとも言われている。一方で、新間のアントニオ猪木という存在に対する思い入れ自体は全く変わっていないという。

因みに、彼にまつわるエピソードとして、1982年に起こった「アントニオ猪木監禁事件」がある。この事件は、漫画家の梶原一騎が、偶然同じホテルに宿泊していた猪木と新間を部屋へ呼び出し脅迫・監禁したというもので、現在でも呼び出した理由を含めて全貌が不透明なものとなっている。呼び出された2人が部屋へ行くと、そこには梶原以外に暴力団関係者なども居合わせており、銃の所持をも仄めかしていたという。

だが、当時梶原たちと共に監禁に関わった人物の告白が掲載されているという別冊宝島『プロレス 真実一路』(2010年刊)によると、実際にずっと部屋で監禁されていたのは新間ただ1人であり、猪木は新間に呼ばれて途中から来たが、すぐに逃げていったということだ。真偽は不明であるものの、結果として猪木も新間も危害を加えられたということも無く、被害届は出さなかった。

【参考記事・文献】
【インタビュー】昭和の新日本をアントニオ猪木とともに作り出してきた“元祖仕掛け人”新間寿が『猪木vsアリ』や『夢のオールスター戦』について語る!
https://battle-news.com/?p=24341
別冊宝島 -プロレス真実一路その1・猪木監禁事件の真相-
https://ameblo.jp/ok-prores/entry-11291243856.html
「過激な仕掛人」から「40年来のタニマチ」まで…アントニオ猪木氏が晩年に縁を切った「3人の名前」
https://gendai.media/articles/-/100597
梶原一騎がアントニオ猪木を監禁?つのだじろうに激怒。極真空手の分裂と大山倍達の後悔
https://asuneta.com/archives/102813#toc1

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【文 黒蠍けいすけ】

画像『リングの目激者 (1983年)