都市伝説

音楽家を不幸に陥れる「悪魔のヴァイオリン」

 弾いた音楽家を不幸に陥れる「悪魔のヴァイオリン」という楽器の伝説が存在する。ヴァイオリン好きの少女に恋をしたアルドブランディーニ枢機卿(後のローマ教皇クレメンス8世)は、彼女のために豪華な装飾入りの最高級のヴァイオリンを作ってほしいと、イタリアガルダ湖畔にあるサロという町に住むヴァイオリン職人ガスパロ・デ・ベルトロッティに依頼した。

 この仕事を引き受けたガスパロは、最高品質で胴やネックを製作、その装飾を作家ベンヴェヌート・チェリーニに依頼した。そして完成したのが「悪魔のヴァイオリン」こと「ベンヴェヌートのヴァイオリン」である。

 ヴァイオリンの完成を待ちかねていた枢機卿は、早速恋心を抱いていた少女に与えた。二人の天才の思いが込められたいたからだろうか。その音は狂ったように響き、旋律には異常なテンションがのっていた。演奏をしていた少女はまるでとりつかれたように「悪魔のヴァイオリン」を弾きまくり、最期には絶命してしまった。




 ショックを受けた枢機卿はヴァイオリンを封印するが、彼女の死後二十年目に供養の意味を込めてある音楽家に演奏を依頼した。だが、この音楽家も演奏中に何かに憑依され、高熱を出して倒れてしまった。

 枢機卿の死後長く封印され、「悪魔のヴァイオリン」という怪奇伝説が生まれるのだが、1646年ある音楽家によって演奏されてしまう。無論、この音楽家にも呪いは襲いかかり、演奏後精神が崩壊、病院に入院させられるが首つり自殺を遂げてしまうのだ。

 17世紀のヴァイオリン職人ヤーコブ・シュタイナーもこの「悪魔のヴァイオリン」に並々ならぬ興味を抱くが、原因不明の高熱に見舞われ一命は取り留めるが、異教徒扱いされ投獄され、不幸な晩年を過ごすことになる。
 その後、「悪魔のヴァイオリン」は博物館の所蔵品となるが、1809年のフランス兵によって略奪をされ、ウィーンのゲオルク・レスリー伯爵の愛器となる。だが、レスリー伯爵もまた精神が崩壊し、亡くなってしまう。
 また、19世紀名ヴァイオリニストとして有名であったフランツ・クレメントも、また呪いの連鎖を受けている。「悪魔のヴァイオリン」を手に入れた途端、アルコール中毒となり、演奏中に脳出血で倒れ、失意の中で世を去っているのだ。

 その後「悪魔のヴァイオリン」は、クレメントの弟子・女流ヴァイオリニスト、ベリンダ・マルギッターを経て、ベリンダの父親の知人・宮廷顧問のウルリヒ・エンツマイヤーが入手する。呪いの伝説を知っていたエンツマイヤーは、「悪魔のヴァイオリン」を鎮魂するために、ノルウェーの音楽家オーレ・ブルに託すことにした。彼は牧師でもあり、日々「悪魔のヴァイオリン」に祈りを捧げ、最期の演奏をして自分の死後、ノルウェーのベルゲン博物館へ寄贈している。




 これが、「悪魔のヴァイオリン」伝説の概要だが、この伝説には矛盾する点が幾つかある。

 最初に「悪魔のヴァイオリン」を制作した二人だが、共同作業が出来ない程、生きた時代がずれている。ガスパロは、(1540 年5月20日 – 1609年4月14日)という生没年であり、一方チェリーニは(1500 年11月3日 – 1571年2月13日)である。

 なんと年の差は40才である。60代の名工チェリーニに、20代のガスパロが仕事の依頼が出来たのかどうか。そもそも、アルドブランディーニが枢機卿であった在位期間は、(1585-92年)でありチェリーニの死後であり、都市伝説の前提条件が崩れてしまう。二代目チェリーニだという説もあるが、どうにも苦しい。「悪魔のヴァイオリン」は”あくま”で架空の都市伝説のようだ。

(山口敏太郎 ミステリーニュースステーション・アトラス編集部)

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