妖怪

人の頭をかみそりでツルツルに、民話のイタズラ化け狐「かみそり狐」

かみそり狐は、日本の民話に登場する化け狐のことである。通り掛かった村人の髪の毛をカミソリで剃り落とし、頭をツルツルにするというイタズラをはたらくと言われている。

かみそり狐のストーリーは、かつてテレビアニメ『まんが日本昔ばなし』でも放送されていたことがあり、大筋は似たような話であるが2種類のタイプがあることでも知られている。1つは「かみそり狐」と言うタイトルの鳥取県由来のものとされている話だ。

野原にいたずら者の狐の一族が住んでおり、人々はその狐にたぶらかされ、みんなが頭をツルツルにされてしまっていた。何とか狐を退治しようとみんなが集まっていた中、才蔵という若者が名乗りを上げ、一人で退治に立ち向かうことになった。

周りより少々知恵のあることが自慢であった才蔵は、野原で狐が若い娘に化けた瞬間を目撃する。その娘は枯れ草を集めてそれを赤ん坊に化けさせ、とある一軒家に入っていった。その家には老婆が一人で住んでおり、娘とともに赤ん坊をあやしていたが、才蔵がそこへ入り込み、この女の正体は狐だと老婆を説得した。

だが、これは自分の娘と孫だと言って才蔵の話を信じない老婆に対し、それではと、杉の葉を燻した煙を娘と赤ん坊に浴びせ始めた。あまりの苦しさに正体を表すだろうと考えた才蔵だが、そのまま娘と赤ん坊は倒れて動かなくなってしまい、人を殺してしまったと焦り始めた。

そこに寺の坊主が通り掛かり、才蔵は殺してしまった母と子の弔いのため、弟子にして欲しいと頼みこんだ。聞き入れた坊主は、才蔵の頭を丸めることにした。ところがこの坊主をはじめ、老婆も娘もみんなかみそり狐が化けた姿であり、才蔵もすっかり騙されていた。

人よりも賢いと息巻いていた人間が、自分自身もしてやられたと言う形で、笑い話のテイストで描かれているストーリーであるが、もう一方のバージョンは子供の頃に視聴し恐怖を植え付けられた人も多いと言われている。そのタイトルは「三本枝のかみそり狐」という話だ。

昔、福島のある村のはずれに三本枝と言う竹藪に化け狐が住んでいると村人たちから恐れていた。その中で、全く怖くもないと言い張る彦べえという若者がおり、暗い竹やぶの中に入っていった。

そこで、赤ん坊をおぶった見知らぬ女性が歩いているのを見かけ、後をつけた彦べえはとある老婆の住む一軒家に女性が入っていくのを目撃した。狐が何か悪さをするのだと考えた彦べえは、女性の赤ん坊をあやす老婆の家に乗り込み、その娘は狐だ、赤ん坊は赤かぶに違いない主張、赤ん坊をつかみ取り囲炉裏の炎の中に投げ入れた。だが、赤ん坊はそのまま焼け死んでしまった。

恐ろしくなった彦べえは走り去ったが、老婆はたちまち鬼の形相となり、刃物を持って彦べえを追いかけた。彦べえはある寺の中へ逃げ込み、そこで坊主に匿われた。罪悪感に打ちひしがれている彦べえに対し、坊主の諭しによって自分も坊主となって頭を丸める決意をした。それから一夜開けると、寺は跡形も無く竹藪の中で眠っていたことがわかり、この時初めて狐に化かされたのだとわかった。

三本枝の狐は、描写的にも非常にホラーめいているため、タレントの伊集院光もトラウマに残った放送回だと言っていたほどである。かみそり狐も、言うなれば妖怪の一種としてみなすことはできるだろう。この類話は、各地にも残されているようである。

狐が人をたぶらかす、特に女性の姿に化けるタイプが多いのは、九尾の狐や玉藻前の伝承にそのルーツを見ることができる。すぐに死んだふりをしてしまうような、少々抜けたイメージを抱かせる狸と違い、狩りに特化した行動をとる狐の生態からも、その賢さが強く反映された事は間違いない。

そんな狐に頭髪を全て剃られてしまうと言うのは、いたずらの中でも最も屈辱的なものであったはずだ。この話にもあるように、他人を見下し、自分の方が賢いと威張っているような人間が、狐にあっさりと騙されてしまうと言うのは、謙虚に生きよという教訓めいた話であると思われる。

狡猾さの象徴でもありながら、人間の中で意地の悪いような性格の者に対し、罰を与えるようなこの性質は、その根底に狐に対する畏怖が根付いていることを思い知らされる。

とは言え、時代が変わればその価値観も異なってくる。現在においては、謙虚に生きるべきということよりも、いかなる事情があろうとも騙されるような被害にあってはならないという警戒を強めた教訓が見出されるかもしれない。

【参考記事・文献】
かみそり狐
http://nihon.syoukoukai.com/modules/stories/index.php?lid=84
三本枝のかみそり狐
http://nihon.syoukoukai.com/modules/stories/index.php?lid=1283
史上最恐!まんが日本昔ばなし「三本枝のかみそり狐」とは?
https://www.pointheart.net/entry/sanbon-eda-no-kami-sori-kitsune
キツネやタヌキが化かすと言われた由来とは?
https://eyespi.jp/l00810/
昔話『かみそり狐』のあらすじ・内容解説・感想
https://folktalesjpn.com/folktale/0084/

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【文 ZENMAI】

画像 ウィキペディアより引用