妖怪

漁で働いた怪力巨女の悲話、千葉の民話に残る妖怪「うみんば」とは

うみんばは、千葉県の銚子に伝わる民話に登場する妖怪あるいは怨霊である。全国各地に伝承が残る「やまんば」に比べて類話が無いきわめて珍しいものであり、かつイワシ漁で栄えた銚子の外川に伝わる悲話として知られている。

およそ200年前のこと。紀伊の湯浅出身である「おさつ」という女性がいた。彼女は身長が2メートル以上あり、かつ怪力の持ち主でまるで相撲取りのようであった。彼女は、常陸(ひたち)や飯貝値(いがいね)のイワシ漁船の水主をしており、のちに外川の浜の網元である大納屋次郎右衛門の下で働き、彼女の働きで活気が付くようになったことを評価し、後妻として迎え入れられた。

外川は、銚子で最も早く港ができた場所であり、1656年に紀州の崎山次郎衛門が開発し、紀州から多くの人々を呼んで町を築きイワシ漁で栄えさせたとされている。次郎右衛門もまた、紀州の出身であったようだ。

ところが、ある年に外川が不漁となってしまった。仕事が無くなってしまったことに嫌気がさしてか、次郎右衛門はおさつを置き去りにして紀州に戻ってしまったのだという。残されたおさつは精神を病んでしまい、また仕事の無さから酒に溺れ暴れ回るようになってしまった。手を付けられず業を煮やした村人たちは相談し、彼女を桶に入れて沖へ流してしまった(砂浜に埋めてしまったという説もあり)。

しかしその後、おさつの命日である3月8日になると、決まって海が大時化となってしまい漁ができなくなってしまう事態が起こった。これは、おさつの祟りではないかという話が村人たちの間で広まり、その後おさつの供養塔を建てて「うみんば」として祀るようになったという。銚子電鉄の終点「外川」には、現在も「外川港 大納屋阿姫供養塔」が現在でも残り建っている。

山姥に倣って字に起こせば「海姥」とでも表記できるだろうか。しかしながら、圧倒的な知名度と伝承の数があるやまんばに比べて、先にも述べた通りうみんばというのは非常に珍しい。山口敏太郎は、このうみんばはやまんばと対称的でありながら、両者が共に豊穣の象徴として祀られていることに共通点を見出している。

また、伝説によるとさらに気になる内容が伝わっている。なんと、桶に入れられ海に流されたおさつは、現在の茨城県神栖市の波崎にその遺体が漂着し、哀れに思った地元民によって当地の宝善寺に葬られ、墓が今も残されているという。

ここで思い起こされるのが、江戸時代に起こったといわれる「虚舟事件」だ。虚舟事件は、1803年(享和3年)に常盤国の浜に漂着したとされる奇妙な乗り物(虚舟)の中から、異国の恰好をした女性が現れたという奇談であるが、近年、この虚舟の漂着地が神栖市波崎の浜であることが判明し話題となった。

おさつを入れて流された桶と、虚舟の漂着地が同じ波崎であるということも驚きだが、なんとおさつが流された時期は1802年(享和2年)、すなわち虚舟の漂着の前年と時期が近い。双方の伝承が何らかの関連があるのか、それとも両者が同じ出来事に基づいた説話であるのか、なんとも興味深い話である。

【参考記事・文献】
熱田画廊
https://x.gd/PX8um
実際にあった話し(外川の伝説)
https://x.gd/u5aHH
千葉妖怪伝説「その十三 海の母性?うみんば」
https://www.mpchiba.com/articles/342.html

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【文 ナオキ・コムロ】

画像 ウィキペディアより引用