妖怪

墓から死体の首を掘り起こし食べる?!「首かじり」は幽霊か妖怪か

首かじりは、老人あるいは旅人が餓死したのちに妖怪化した存在であると言われている。生前、自分に食べ物を与えなかった者の墓に現れ、その人物の首を掘り出して食べると言われている。

いくつかの文献において記載されているが、それぞれ解説内容が異なっている。例えば、水木しげるの『日本妖怪大全』によると、「施餓鬼」(せがき)をされなかったり供物が少なかったりして、ひもじい思いをしている「妄鬼」のたぐいではないかと述べられており、ヨーロッパに伝わる墓場に住み死体を食う鬼のような存在「屍鬼」などと似た存在であるということが示唆されている。

一方、佐藤有文の『いちばんくわしい日本妖怪図鑑』によると、首無しの死体で墓に埋葬された人の幽霊が首かじりと呼ばれ、彼岸の頃になると現れ、自分の首を探し出すことができるまで他人の墓を荒らし続けると記されている。

同じく佐藤有文の『お化けの図鑑』では、死体の生首をかじり、血を垂らしながら骨までしゃぶるという簡略化した説明がなされている。前記の水木しげるのものと比較しても、双方での解説が明らかに異なっているのがお判りだろう。

もっと言えば、『日本妖怪図鑑』に至っては首無し死体が元であるにもかかわらず、絵を見てもお解りの通り当の首かじりには首が既に備わっており、しかも掘り出した他人の首にかじりつくことについて全く理由が説明されていない。

首かじりは、いずれも血の滴り落ちる首を両手で持ち、食らいついている足の無い(吹き出しのように先端がすぼまったデザインの)やせ細った老人と思しき存在として描かれている。

このイラストおよび構図は、江戸時代の浮世絵師である一筆斎文調(いっぴつさいぶんちょう)が描いた「男の生首口にしたる幽霊」という幽霊画でそのまま描かれているため、この幽霊画が元になったことは間違いないだろう。

ただし、この絵画はあくまで”幽霊”画であり、そもそも「首かじり」といった名前で呼ばれておらず、妖怪として描かれたわけではないことは明白だ。妖怪として紹介されるようになったのは、1966年の『別冊少女フレンド』にて掲載された斎藤守弘による特集で、先の浮世絵が描かれていたことがきっかけであったと考えられている。

水木しげるの著作内での解説では、土葬が多かった時代に犬猫が死人の首を掘り出してかじることもあったことだろうという推測に基づき、そうした様子をいわばこの「首かじり」の仕業に仕立てられたのではないかと説いている。

とは言うものの、その原本をはじめとして佐藤、水木両人の著作の解説から見れば、首かじりは妖怪というよりははるかに幽霊寄りの存在として扱われている。もちろん、山口敏太郎が唱えるように、幽霊であったものがのちに妖怪となったとされるケースも見られるため、一概に妖怪ではないとも言えない。

因みに、山口敏太郎がかつて掛け軸の専門家を取材した際に、絵画に描かれる首かじりの構図を指して「首かじりもの」という呼称があるのだという。そのため、一つのジャンルとして存在していた絵画である可能性があり、先の一筆斎以外の描いた「首かじり」が実際は存在しているのかもしれない。

【参考記事・文献】
佐藤有文『日本妖怪図鑑』
佐藤有文『お化けの図鑑』
水木しげる『日本妖怪大全』
村上健司『日本妖怪大事典』

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【文 ナオキ・コムロ】

画像 ウィキペディアより引用