これは筆者自身が経験した奇妙な話である。「行徳の昔話」という本を行徳昔話の会が出版している。この中で奇妙な話が話されているのだ。
千葉県の行徳におかね塚というものがある。この付近に娘の幽霊が出るという。
海神下から二俣の間にかけて葛飾田んぼという長い道があった。この道を夜通るとかわいい娘が前になり後になりついてくる。その時、娘につられてつい後ろを振り返ると海まで連れていかれるという。
船橋にあった遊郭帰りの着流しの男性がよくこの怪異に会うと言われた。しかし何故、その娘が出たのか、何を訴えたいのか、何故遊郭帰りが狙われるのか、一切その本の話者は知らないようであった。
この話を読んで私は現地に調査に行ったのだが、確かに行徳四丁目におかね塚は存在した。そして、そこにお参りに来ていた老人に聞いたところ、悲しい怪談があきらかになったのである。
かつて吉原におかねという遊女がいた。その遊女は浦安の塩を運ぶ船の若い船頭と恋仲になり、奉公の年季が明けたら夫婦になろうと二人は固く約束した。
年季明けの日 おかねは船頭を待っていた。しかし等々船頭は姿を見せず、おかねはそのまま病床についてしまった。そして最後まで恋人が迎えに来る事を信じて死んでいったという。
このおかねの純情に心を打たれた吉原の遊女100人がお金を出し合って作ったのが今も残るおかね塚であるという。
いかがであろうか。先述の本で指摘されたおかね塚に付近に出る娘の霊とは「おかね」の幽霊ではないのだろうか。
このように前半が欠落した伝説が他の情報源から補填される事はたまにある。そして今回は背中に冷や水をかけられたような感覚を受けたのは事実である。
ちなみにおかね塚の幽霊が着流しの男を狙ったのは昔の恋人を思いだしたのかもしれない。
(山口敏太郎 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
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