高坊主は、関西、主に四国で出現したと言われる妖怪である。その特徴については、いくつかバリエーションがあり、また地域によって呼び名が異なっていたり、特徴が似ていることから類する妖怪であると称されるものがいたりする。
徳島県では、麦の穂が出るころに夕方近くまで遊んでいる子供に対し「高坊主に化かされる」といって注意していたと言われている。香川県では、途方もなく背の高い坊主が四辻に現れるという話が伝わっており、同県ではほかにも両側の山をまたいで出現し高坊主に遭遇した人物が、思い切って刀で斬りつけるとそれ以降現れなくなったという話も残っているという。
高坊主には、大きさが徐々に変化するという種類の話がいくつも見受けられる。徳島県の山城谷などでは、とてつもなく背が高い怪物「高入道」と称され、見下ろすと小さくなったと言われている。
愛媛県では、「ノビアガリ」「タカタカ坊主」などと呼ばれ、見上げるとどんどん大きくなっていくが、見下げると逆に小さくなっていき、逃げて行くという。また、同県ではある竹藪に白い着物を着た小坊主がおり、見ていると大きくなっていきそのまま消えてしまったという話もある。
高坊主の正体については、それが狸やカワウソといった動物が化けたものであると解釈されるものが多い。奈良県では、目鼻口の無い一間(約1.8m)の坊主が現れ、肝の据わった人物が驚かないでいるとこれでもかとどんどん膨らんでいき、最後には腹が破裂してしまったという伝承がある。香川県には、山大寺池の主である緋鯉が高坊主に化け、通行人をおどかしていたとも言われている。
この他、夜道でこちらの歩く速さに合わせて背後から追ってくる高坊主の伝承が香川にあるという。その高坊主は決まった場所でふっと姿を消してしまい、特に危害を加えるわけではないものの、帰ってから必ず体調を崩してしまうという。
和歌山県においては、夕方薄暗い頃に山から下りてきて、その時間にまだ遊んでいる子供を連れ去ってしまい、さらわれた子供は二度と帰ってこないといった、恐ろしい存在として伝わっているようである。
愛媛県では、高坊主が通行の邪魔をしてきた際に食べ物をやると姿を消したという話もある。また、とある商人が神のお告げにより自身の娘が18歳でナマズの餌食になると伝えられ、お伊勢参りに行く娘へ弁当を持たせたところ、通りがかりの近江の湖に高坊主が現れ、その高坊主に弁当を与えたところ80歳を超えて生きることができたとの伝承もある。
石川県には、高坊主(たっかんぼ)が出ると呼ばれた坂が存在していたといわれる話はレアケースとして、高坊主自体はかなり限定された地域の各所に伝承が残っているのが特徴であると言えるだろう。
伝承の中では、化けた動物のしわざということで説明されることもあるが、現実的な解釈としては”臆病者が人通りのない場所を通ると現れ、見る見るうちに大きくなっていった”といった内容のものも確認されており、夜の明かりで浮かび上がった自身の影を高坊主と称したという可能性も考えられるだろう。
また、高坊主が出現するといった土地は山間地域であるケースが多い。巨大な妖怪として代表的なダイダラボッチは、太陽光に照らされた自分の影が霧などに映し出される「ブロッケン現象」が一因となって語られるようになった存在であると言われている。
高坊主も、こうした自然現象が由来として伝わるようになった妖怪の一種であるのかもしれない。
【高入道(タカニュウドウ)】人前に不意に現れて、思わず見上げた人の目の前で、背がどんどん高くなり、天に達するほどの巨人となるものとされる。同様の特徴を持つ見越入道に類する妖怪であり、似た名前の高坊主と同一の妖怪との説もある pic.twitter.com/8InlpJ3sDA
— 妖怪カルテ (@yokaikarte) April 17, 2017
【参考記事・文献】
村上健司『妖怪事典』
怪異・妖怪伝承データベース
https://sekiei.nichibun.ac.jp/cgi-bin/YoukaiDB3/msearch/msearch.cgi?index=&config=&query=%e9%ab%98%e5%9d%8a%e4%b8%bb
妖怪大図鑑〜其の七拾五 高坊主
https://www.nwn.jp/feature/170729_takabozu/
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【文 黒蠍けいすけ】