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山の怪異・伝承の一画を築き上げた自然現象「ブロッケンの妖怪」

ドイツのハルツ山脈の最高峰であるブロッケン山では、ワルプルギスの夜が開催されたという伝承があり、昔から魔女や死者の魂が集まる山としても知られている。その中でも、昔からヨーロッパではこの山に登ると突如として謎の人影が姿を現すとして非常に恐れられ、「ブロッケンの妖怪」と呼ばれていたという。

ブロッケンの妖怪は、現在では自然現象の一つと明言され「ブロッケン現象」とも呼ばれている。太陽光に照らされた自分の影が霧やガスに映し出される現象であり、 多くは巨大な影となって現れ、時としてその影の背後に後光のような丸い虹を伴うこともある。かつては、登山中に命を落とした人々の亡霊ではないかとも言われていた。

明治6年に出版された博物学者鳥山啓(ひらく)編『変異弁』は、ブロッケン現象が日本で紹介された最初期の文献であると思られる。「ぶろけん」山(ブロッケン山のこと)を登っていた人物が自分と全く同じ動きをする巨人を目撃し、地元では「ぶろけん山の幽鬼」と呼ばれていたと記されている。この本では、すでにこれが自然現象であることが併記されている。


ブロッケン現象は、ブロッケン山でたびたび目撃されたことに由来している名称ではあるが、その現象自体は日本でも古くから確認されてきた。先の『変異弁』では他にも、雄略天皇一行が葛城山を登っている際、向こう側にも同じような行列が歩いているのを目撃していたとの逸話が記されている。

日本においてこの現象は「ご来迎」(ごらいごう)と呼ばれており、これは阿弥陀如来が人々を浄土に迎えるため光背を負いながら現れることになぞらえた名称である。ヨーロッパでは妖怪として恐れられていたこの現象は、一方の日本ではむしろありがたいものと見なされていたようである。

興味深いことに、山の怪異として語られてきたものの中に、ブロッケン現象もしくはそれに類似すると思しき事例がいくつか確認されるのだ。カルフォルニアのサンタ・ルシア山脈では、1700年ごろにスペイン人がこの山を訪れた際、謎の巨大な人影を目撃したという記録が残されており、それ以降「ダークウォッチャー」と呼ばれ恐れられていたという。状況と証言からすれば、まさしくブロッケン現象であり、現在では同様のものであると見なされている。




もう一つ興味深い例として、イギリスと登山家エドワード・ウィンパーの逸話があげられる。1865年にマンハッタン登頂の到達に成功した彼ら一行が、下山中に数人の仲間が奈落へ落ちてしまうなどの悲劇に見舞われてしまった。そのさなか、巨大な十字架の影が上空に現れたというのだ。

彼自身の書いた絵と証言によると、「大きなアーチがかかり、その中に二つの十字架が見えた」という。いまだ完全には解明されていないようだが、この出来事もブロッケン現象が関係しているのではないかという説がある。

ブロッケン現象、ブロッケンの妖怪は、数ある山の怪異の一画を築き上げた現象であることは間違いないだろう。巨大に見えるという点では、ダイダラボッチといった巨人の妖怪も、この現象が要因の一つとなっていると考えられる。

因みに、福島県の南会津を流れる只見川では、水面でブロッケン現象を確認することができるそうだ。

【参考記事・文献】
ウィンパー隊の幻覚とブロッケン現象
https://ameblo.jp/musyaavesta/entry-12506017767.html
何百年間も人々に恐れられてきた山頂の巨人「ダークウォッチャー」の正体とは?
https://gigazine.net/news/20210318-dark-watcher-brocken-spectre/
ヨーロッパで恐れられたブロッケン!日本に出現?捉え方の違いとは
https://www.savag.net/brocken-spectre/
ブロッケン現象について
http://www.morgenrot.jp/data/tips/brocken.html

(ナオキ・コムロ 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

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