Hさんは、出版社に勤める編集者である。彼は時折、奇妙なモノに遭遇する。
「僕って、意外と見るんですよ」
彼は、屈託無く笑う。大学生の頃、友人2人と肝試しをやることになった際にこんな事があった。
「そうだな、谷中霊園の探検ってどうだ」
彼の提案に友人たちは、眼を輝かせた。
「おもしろそうだな」
彼ら三人は夜中の谷中霊園にやってきた。夜の墓場はあまり怖くもなく、幽霊など微塵も存在していない。幽霊が出るという噂も聞いていたが、ガセネタのようである。
「やっぱり、何も起きないか」
「そうだな、散歩でもして帰るか」
期待外れだったと落胆していると異界の干渉が始まった。
呼吸の荒い音が聞こえた。
「ハアハアハア、ハアハアハア」
呼吸音は段々と、近づいてくる。野良犬がいるのか。彼はそう思い、呼吸の主の方に視線を向けた。
「うわあーっ」
目の前にポーンと、何かが飛び上がってきた。きのこのような、角の丸い三角形。
三角形の白い生物がいきなり飛び上がったのである。
なんだ、こいつは。Hさんは一目散に逃げ出した。友人たちも後に続いた。
「今のなんだろう、未知生物かな」
「兎に角、犬や猫じゃない、だが呼吸してたな」
「ということは生き物か」
もはや三人は、先程の生物のことでパニックになっていた。
すると、次なる怪異が降りかかった。
前方を何かが横切った。すーっと、視界を横断するモノ。
「なんだ、あれ」
一瞬だったので確認ができない。だが、白いモノが横切ったような気がした。
「確かに何かが横に移動した」
仲間たちも、そのモノを見ていた。
「3人で見たってことは、夢じゃない」
そんな会話をしていると、再びなにかが横切った。白くて半透明な女。女が音も無く動く。横にすーっと移動する。半透明の女、あれは何だ。戸惑う3人。
再び女がすべるように移動する。もはや分析など不要であった。
「兎に角、逃げよう」
墓場を静かに逃げ出した。
霊はあの世から現世をすーっと、横切るモノなのだ。
(山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーション・アトラス編集部)