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女性プロ野球選手という斬新な設定「野球狂の詩」 水原勇気誕生の悲話

『野球狂の詩』は、1972年から77年に『週刊少年マガジン』にて連載されていた漫画家・水島新司による野球漫画。50歳を超えてなお現役投手として活躍する岩田鉄五郎を中心に、球団「東京メッツ」の野球に熱い人々、いわゆる”野球狂”たちを主人公とし、その彼らが織り成す野球人生を描いた作品となっている。

後期は、ドラフト1位指名となった初の女性プロ野球選手・水原勇気の成長を描いている。

本作はテレビアニメ化もされているが、非常に珍しい放送形態となっていた。1977年末に、水原勇気の入団騒動を描いた単発のスペシャル番組として放送され、それが好評だったことで78年の5月から9月にかけて、毎月1回のスペシャル番組として放送された。

2話から6話までが月一放送で、それも1時間のアニメ番組だった上、原作では後期の登場であった水原をメインに扱っていた。

その後、7話からは11月以降週一で放送されることとなり、79年までに全25話が放送された。1話1時間の放送はそのままキープされ、アニメでは後半が水原以外の登場人物たちの活躍を描く形となった。

1977年3月、日活系で実写映画となった本作では、主人公・水原を木之内みどりが演じた。本作は、実在の球団である南海ホークス選手が制作に協力、野村克也も実名で出演しており、水島も東京メッツファンのおじさん役で出演している。

また、監督・加藤彰をはじめとして当時日活のポルノ映画に携わっている人物が撮影や脚本に参加しているということもあってか、少々お色気を交えた作品となっている。

さて、この水原勇気というキャラクターの誕生には、前述の野村が関わっている。「嘘のない野球漫画を描きたい」「子供たちに野球の全てを伝えたい」という信念から、実際に野村監督率いる南海ホークスの練習に密着し、球拾いを行なうほどであったという。

そんなとき、「野球で女性が男性に勝るものがあるとすれば何か」を多数の先週に聞いて回ったところ、誰もが否定的な意見を寄せる中、野村のみが「変化球勝負の投手で1イニング限定ならばやれるだろう」と返答した。

これを聞いた水島は水原の魔球を構想、それに阪神の江本孟紀(たけのり)のシュート、そして巨人のクライド・ライドのスクリューを合わせた「ドリームボール」という水原の魔球設定を生み出した。なお、この「シュートして、揺れて、落ちる」という魔球は野村から「あり得る」とのお墨付きも得ているようだ。

70年代、少年誌で、それも野球漫画での女主人公はきわめて異例と言って良いだろう。だが、1991年に日本プロフェッショナル野球協約の第83条第1項「医学上、男子でない者は支配下選手になれない」の条文が削除、さらに2008年には男性と同一チームでプレーする女性プロ野球選手・吉田えり(神戸9クルーズ)が誕生、まさしく時代が水島に追いついていった。

【参考記事・文献】
https://x.gd/FysqE
https://www.nippon.com/ja/japan-topics/g02061/
https://dic.pixiv.net/a/%E6%B0%B4%E5%8E%9F%E5%8B%87%E6%B0%97

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【文 黒蠍けいすけ】

画像『〈ANIMEX 1200シリーズ〉(12) オリジナル・サウンドトラック 野球狂の詩