藤竜也は、映画『愛のコリーダ』やホームドラマ『時間ですよ』、刑事ドラマ『大追跡』などで活躍した俳優である。
大学時代に、東京都有楽町の日本劇場前にて日活のスカウトマンから声を掛けられたことがきっかけとなり、日活に入社し芸能界入りを果たした。
筋肉質な体を持つ俳優として知られ、出演したことで一躍ブレイクを果たした「時間ですよ」においては、肉体の変貌ぶりも注目された。足繁くジムに通い、「体を鍛えた日本の俳優の先駆」とも称されている藤であるが、そもそもジム通いを始めたきっかけは若手時代に遡る。
日活入社後、それほど演技が上手かったわけではなかった彼は、大部屋俳優扱いとして歩行人ほどの役柄しか与えてもらえず、2~3ヶ月もの間仕事が無かったこともザラという不安定な生活を送っていた。そんな頃に始めたのが、ひたすら汗を流しながら無心で打ち込められるトレーニングジムへの時間つぶしであったという。
言うなれば、日活に入ったことで大学も辞め、真剣に俳優業について考える中で生じる不安を取り払うことが、当初の理由であったというわけだ。また、そのような体を生かしてか、プラスで手当が出るスタントにも積極的に挑戦していたこともある。
しかし、体操や格闘技を習っていなかったことからたびたびケガをし、骨折をはじめ、割れたガラスが背中に突き刺さるといった事態もあり、手術をするはめになったことも2~3度あったそうだ。
彼の出演オファーや出演候補には、いくつか面白い話がある。
2015年に公開された北野武監督の映画『龍三と七人の子分たち』にて、引退した元ヤクザの龍三親分(主演)を務めた。それまで、北野作品からのオファーなど一度も無かったことから、「新手の詐欺ではないか」とすら疑ったという。
また、彼は倉本聰原作のドラマシリーズ『北の国から』の主人公である黒板五郎役の候補としてあげられていたこともあった。藤によると、実際に主演を務める田中邦衛と自分以外に、高倉健、西田敏行、緒形拳、中村雅俊といった人物が倉本によって候補に挙げられていたとのこと。
結果として田中が選ばれたのは、「この中で誰が一番情けないか」と挙手を募ったところ、文句なしで田中だったことによるという。
さて、そんな彼を語る上で忘れてはならないのは、なんといっても1975年に公開された映画『愛のコリーダ』だ。
藤が主演を務めた本作は、かの阿部定事件をモチーフとした、日本で初めて実写の性交シーンを公開した映画としても知られており、また当時「芸術か猥褻か」という衝突で大論争を巻き起こした問題作である。
本作は、内容が内容だけにキャスティングもきわめて難航していたという。
この頃の藤は、「時間ですよ」のブレイクを通じ、また大河ドラマ『勝海舟』にて土方歳三を演じるなど、売れっ子俳優としての地位を確立しつつあった時期であった。そのイメージが崩れてしまうと危惧した藤の所属する事務所から、出演の猛反対にあったのは無理もないことだった。
だが、藤は制作発表会見の前日に監督の大島渚から渡された台本に目を通し、「俳優としてやらなきゃ損だ」と強く思い、結果として所属事務所を辞めてまで出演することになった。
出演後、大島監督や宣伝用の書籍を出版した出版社社長が起訴され、藤自身も参考人として聴取を受ける事態に発展。この状況が響いてか、彼は「大追跡」(1974)にて出演するまでのおよそ2年間、仕事が皆無という状況に陥ることになってしまったという。
なお、彼が裁判で無罪となったのは、それから7年後のことだった。
【参考記事・文献】
・https://www.daily.co.jp/gossip/2024/12/22/0018471445.shtml
・https://dot.asahi.com/articles/-/107510?page=1
・https://newsmatomedia.com/fuji-tatsuya#i-3
・https://thetv.jp/news/detail/70874/
・https://career-report.tokyo/fuji-tatsuya/
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【文 黒蠍けいすけ】
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