どてらい男(やつ)は、小説家である花登筺(はなとこばこ)の小説、およびそれを原作として1970年代に放送されたテレビドラマ作品である。大手専門商社「山善」の創業者である山本猛夫をモデルとした立志伝であり、橋幸夫や舟木一夫らと共に歌謡界における御三家の一人として数えられていた西郷輝彦は、この山本役を務めたことで俳優の地位を確固たるものとしたという。
1973年から77年まで放送され、放送回数全181回を数える本作のテレビドラマは、モーヤンこと”山下猛造”が商売の世界で一旗揚げようと奮闘する物語であり、最高視聴率は35%を超えたという。商売物ドラマの原点とも称されたほどに人気であったドラマであるが、本作は長らく再放送が行なわれておらず、2022年にBS・CS放送にて初めて再放送が開始された。
2013年、大ヒットを記録したテレビドラマ『半沢直樹』。このドラマの内容が、どてらい男の内容を彷彿とさせるということで、一時はDVD化の話が持ち上がった。しかし、ここである重大な事情が判明した。それは、どてらい男のビデオテープが無かったということだ。厳密には、製作元の関西テレビのアーカイブ倉庫に「第1話」と「最終話」の2つしか残っていなかったのである。
これは、当時ビデオテープが非常に貴重で高価なものであったことから、使い回し(再利用)を幾度となく行なっていたためだ。こうした事情は、「笑点」の初期放送や人形劇「プリンプリン物語」も同じ事情を抱えたものとして立ちはだかったエピソードがある。
これによって、2014年に関西テレビ放送がメインとなって、一般家庭に眠っているかもしれない「どてらい男テープ捜索プロジェクト」が立ち上がることとなり、当時まだ存命であった西郷輝彦をはじめとして、ドラマの舞台となった山善からも協賛の意志が発信された。
実はこの時点で、山善では7話から129話までの計121回分のテープが発掘されており、ビデオ修正やデジタル化が行なわれていた。
その後は、実に地道な作業の展開となっていき、各話のエンドロールから出演者をピックアップし、それぞれの事務所に問い合わせて確認するといった作業が数年に渡って行なわれていた。なお、このプロジェクトを通じて神奈川県横浜市からさらに映像が発見され、ほぼストーリーを追える程度の埋め込みが可能となったことで、とうとう再放送による復活にこぎつけたという。
残念ながら、現時点で全ての回が完全に揃っているわけではない。そして、告知なくプロジェクト自体は終了してしまっている。しかしながら、伝説とも呼ばれたドラマの復活まで漕ぎつけたというその過程は、間違いなく現代を通じて生き続ける伝説となった。
【参考記事・文献】
半沢を見た西郷輝彦さん「やられた!現代版『どてらい男(ヤツ)』だ」昭和から未来に遺した“商売物ドラマの原点”
https://www.ktv.jp/doterai/
西郷輝彦の伝説ドラマ、40年ぶりに復活
https://www.lmaga.jp/news/2019/02/60218/
『どてらい男(やつ)』テープ捜索プロジェクトに協賛します 山善
https://www.yamazen.co.jp/archives/001/node_10973.pdf
関テレ、ドラマ映像の提供呼びかけ 70年代人気ドラマ『どてらい男』捜索
https://www.oricon.co.jp/news/2041299/full/
【アトラスニュース関連記事】
人形劇「プリンプリン物語」の多くの放送回が失われたわけ
サラリーマン反逆劇の金字塔『半沢直樹』にまつわる都市伝説や心霊談
【文 黒蠍けいすけ】
画像『どてらい男』