タイムトラベル

猪木をプライベートで襲撃!日本プロレス界に衝撃を走らせたインドの猛虎「タイガー・ジェット・シン」

タイガー・ジェット・シンは、「インドの猛虎(狂虎)」の異名を持った、インド出身の悪役プロレスラー。ターバン姿でフェンシングのサーベルを持った独特の容姿をしており、またヒールというポジションに違わず過激な演出を行なう試合の数々で知られた。

1965年、カナダ・トロントでデビューした彼が来日したのは、1973年だった。この年の5月4日に行われた新日本プロレス「ゴールデンファイト」シリーズ開幕戦にて、山本小鉄とスティーブ・リッカードが対戦をしていたさなか、客席からターバンを巻いた謎の男が突如としてリングに上がり、山本をコブラクローで締め落とすという衝撃的な展開を繰り広げた。

この男こそがタイガー・ジェット・シンであり、またこれが彼の日本でのデビューとなった。

それ以前は日本において無名の選手であった彼であるが、トロントを拠点としたカナダでもヒールとして大いに活躍しており、ジョニー・バレンタインを破ってUSヘビー級王座を獲得するなど現地でも悪役レスラーとして際立っていた選手だった。

彼を語る上で欠かせないのは、アントニオ猪木との因縁である。そもそも、旗揚げ当初の新日本プロレスは弱小団体もいいところであり、外国人レスラーの招聘も日本プロレスや国際プロレスにそのルートを独占されている状態だった。そんな中、プロレスの過激な仕掛け人としても知られる新間寿が、とある知人からタイガー・ジェット・シンを紹介され、これが新日本プロレスとシンが関わるきっかけとなった。

猪木との抗争は、新日本プロレスが人気団体となる起爆剤にもなったと言われている。特に象徴的な出来事は、1973年11月5日に新宿伊勢丹デパート本店前にて、猪木が当時の妻、倍賞美津子とともに買い物途中であったところをシンがサーベルを持って猪木に襲いかかった事件だ。新宿伊勢丹前襲撃事件と称されるこの事件は、シンが正真正銘のヒール、狂虎であることを世間に知らしめることとなった。

その後の活動に支障が出てしまうということから逮捕は免れることとなるが、この狂気を持った戦闘スタイルは当時としても賛否があったらしく、地方の試合などでは県警にシンのサーベルを取り締まらないとは何事だという通報まであったようだ。

シンの試合は過激さを増し、反則試合・流血試合は当たり前といった調子で、また凶器を使った攻撃も多く、パイプ椅子や机、ゴングなど試合会場の中にあるものはありとあらゆるものを使用していた。

こうした中で最高潮に達した試合が、1974年6月に行われた東京・大阪でのタイトルマッチ2連戦であった。はじめ、東京蔵前国技館の試合にて猪木はシンからの火炎攻撃を受け、サーベルで滅多打ちされたことで左目と頭部を負傷した。続く、大阪府立体育会館で行われる試合の前には、猪木が「奴の腕をへし折ってやる」と公言し、その試合は猪木がショルダータックルの反撃をはじめとして、椅子での殴打、そしてシンの右腕をつかみ鉄柱に何度もぶつけてからのショルダーアームブリーカーを連発したことで、シンは右腕を負傷した。

これにより試合はストップしたが、公言通りに腕を折ったというわけではなく、実際は亜脱臼だったとのこと。とは言え、両者の因縁はその後も、シンが全日本プロレスに引き抜かれた1981年まで続いた。

この宿命のライバルと言えるほどの抗戦劇に世間は熱狂し、当時女子高生に対する暴力行為容疑(のちに冤罪と認められた)で拘置所に留置されていた吉田拓郎ですら、「猪木とシンの試合はどうなった?」と尋ねていたほどであったと言われている。またスタッフも、シンのあまりに常軌を逸した試合に対しクレームが殺到する中、一方で高視聴率をマークしていたこともあり「苦情の電話は視聴率が良い証」と考えまったく気にも留めていなかったそうだ。

日本のプロレス界に衝撃を走らせ、また大いに湧かせたシンであるが、上田馬之助がそうであったように悪役レスラーにはありがちな「実はいい人」という一面もある。実際、日本以外ではベビーフェイスとして活躍しており、また実業家としても著名人として名を連ねる存在となっている。

なお、上田とはヒールタッグで共に猪木らを相手にしたこともあり、東日本大震災の一報を聞きつけたシンが真っ先に安否確認の電話をした相手は上田だったという。

【参考記事・文献】
「取り締まらないとは何事か!」警察に苦情電話が…アントニオ猪木に火をつけた“真のヒール”タイガー・ジェット・シン伝説《旭日双光章を受章》
https://number.bunshun.jp/articles/-/861506#goog_rewarded
タイガー・ジェット・シン
https://x.gd/y1umn
タイガージェットシンについて
https://kakutougi-pro-wrestling.com/tiggershin
タイガー・ジェット・シン
https://x.gd/uUkCu
新日本だけでなくテレビ朝日を喜ばせた大ヒール…タイガー・ジェット・シン
https://igapro24.com/2018/11/21/historia-157/

【アトラスニュース関連記事】
実は医療ミスが原因だった?!日本プロレスの父「力道山」の死の疑惑

今なお最強説根強いプロレスラー「ジャンボ鶴田」伝説

【文 黒蠍けいすけ】

画像 ウィキペディアより引用