設定の誕生は医学書がきっかけ？「北斗の拳」の世界設定にまつわる多くの要素

北斗の拳は、武論尊(ぶろんそん)が作画、原哲夫が作画を担当した漫画作品。1983年から88年にかけて週刊少年ジャンプに連載され、また同時期にはアニメ化もされたことで大ヒットとなったことから、ジャンプ黄金期を代表する作品の一つとして知られる。すでに連載を終了しているにも関わらず、パチスロやゲーム、そしてスピンオフ作品などの展開によって、今なお多くのファンを獲得している。

核戦争により荒廃した世界の中で、北斗神拳の伝承者であるケンシロウがその暗殺拳によって悪党をなぎ倒していき、人々の出会いと別れを繰り返しながら旅をするというストーリーとなっている本作。

荒廃した世界で、暴走族とも言えるような悪党たちがその奇抜なヘアスタイルや衣装をまとって暴れ回るというこの設定は、映画『マッドマックス』と非常によく似ている。実際のところ、原は「北斗の拳」を描くにあたり、この「マッドマックス」の影響を強く受けていたという。また、主人公のケンシロウもブルース・リーや松田優作をイメージしたキャラクターであるそうだ。

ブルース・リーにヒントを得たという意味では、アニメでケンシロウの声を担当した神谷明も同様である。ケンシロウといえば、その攻撃の際に裏声を使った怪鳥のごとき掛け声「あたたた！」が有名であるが、これはオーディションにて同じく声優の古川登志夫と競っていた中で、神谷独自の発声であったという。キャラクターの通常時と同じようなトーンで披露した古川は、神谷のこの掛け声を聞いて「負けた」と確信したという。

また、先の「マッドマックス」以外にも「北斗の拳」の着想の元になったものがある。「北斗神拳」は”経絡秘孔”と呼ばれるツボに拳や指あるいは蹴りなどをくわえ、気を送り込み肉体を破壊するといったものが極意として語られるが、この北斗神拳の元になったのはまさにこのツボ押しであったという。しかも、そのきっかけは編集者がツボに関する医学書を読んでいたことだったと言われている。

そうしたケンシロウによって繰り出される北斗神拳は、それを受けた敵が絶命する際に個性的な断末魔を叫ぶという描写が、パロディで用いられるほどによく知られている。「あべし」「たわば」「ちひゃ」といったこの珍妙な断末魔を上げる方式は、連載当初からあったものではなかったが、決定的な火付け役となったのは「ひでぶ」であった。

かつては、原作の武論尊が「誤植であった」と発言したことから、書き文字を読み間違えた業者によって定着してしまった偶然の産物とされたとの説が世に広まったが、のちに「痛ぇ」の叫び声である「ひでぇ」に体が破裂した際の「ぶ」という音の組み合わせによる、意図された発言であることが原によって語られている。

誤植説は、結局のところ武論尊が成り立ちの経緯を忘れていたことからの勘違いだったのだが、何はともあれ、この「ひでぶ」によって北斗の拳の珍妙な断末魔は注目を集め、北斗の拳の人気をより高める要因になったことは間違いない。この断末魔の叫びは、アニメにおいては声優のアドリブなどによって原作とは違う内容となっていることもある点が楽しみの一つとされていたが、そんな中で「うわばら」という断末魔で知られるアミバのこのセリフがアニメで使用されなかったことで、ひどくガッカリした視聴者も多かった。

名ゼリフも多数もたらした北斗の拳であるが、ケンシロウの「お前はもう死んでいる」と並び知られているのは、彼と激戦の末に絶命したラオウの「わが生涯に一片の悔い無し！」だろう。作中の中でも人気キャラの一人として知られるラオウであるが、2007年アニメ映画『ラオウ伝激闘の章』が公開される記念イベントとして、なんとラオウの葬儀が実際に行われた。

「昇魂式」と題された当日は、雨が降りしきる中3000人以上の人々が参列し、原の書き下ろし遺影も用意されたものであり、都内の高野山東京別院で行われた。この寺院が選ばれたのは、設定上北斗神拳の伝承に真言宗が関わっていたからであるという。