モウレンヤッサは、千葉県銚子市に伝承される海上の妖怪。モウレイヤッサとも呼ばれており、舟幽霊の一種だと言われている。「モウレン」は「亡霊」のことであり、「ヤッサ」とは舟を漕ぐ掛け声のことであるという。
伝承によると、霧の深い時化の日に漁へ出ると、沖が薄明かりに照らされて「モウレン、ヤッサ、モウレン、ヤッサ」という声が聞こえてくるのだという。その掛け声がだんだんと近づいてくると、海の中から大きな手が突然現れ、「いなが貸せえ」と訴えてくるという。
「いなが」というのは柄杓のことであり、これを求めてしつこく付きまとってくる。この時に柄杓を渡すと、船の中に柄杓で掬った海水を入れられて船を沈めようとしてくるため、底の抜けた柄杓を渡すことで対処することが可能であると言われている。因みに、その大きな手には巨大な目玉が付いているそうだ。
モウレンヤッサは、海難事故によって命を落とした人々の亡霊。自分たちが海に飲まれて苦しみながら死んだことを恨み、仲間を増やそうと海中に引きずり込むことが目的であると言われている。
このモウレンヤッサは、テレビアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』の第2期に登場し鬼太郎と戦いを繰り広げたことがある。海で死んだ人間たちの亡霊が妖怪化したものという点は同じであるが、アニメでは「モウレイヤッサン」という呼び名となっており、「猛霊八惨」という漢字の表記もされている。
集団で鬼太郎とバトルを展開したモウレイヤッサンは、その造形も同作の一反木綿を厚くして足をつけたようなデザインとしており、渦潮を縦向きにしたような『妖怪水車』という必殺技で鬼太郎を追い詰めた強敵であった。
劇中には、この漢字表記を用いた幟の立つ神社が登場していたが、実際の現地ではそのようなものは確認されておらず、またこの漢字表記が用いられている例も無いため、水木しげるオリジナルの設定であったと考えられるだろう。鬼太郎では第3期や第5期にも登場しており、一貫して悪者として登場する。
銚子市は、日本一にも数えられるほどの漁港が存在しており、過去号の「うみんば」でも述べた通り漁が盛んである。一方で、それと同時に日本有数の難所とも言われる海域が存在していることも忘れてはならない。
「銚子川口てんでんしのぎ」と呼ばれ、相手の船のことは構わずに自分の操船を心掛けねばならないという戒めもあるという。
1614年、越後高田をはじめとして北は会津から南は伊予松山まで被害が確認された、慶長の大地震が発生したと言われている。この被災地の中に調子も含まれており、この時に発生した津波のため銚子の町では1000人を超える漁民が犠牲になったと言われている。その人々の供養のために建てられたのが、銚子の海と利根川の交わる川口町に現存する、「千人塚海難漁民慰霊塔」。
この大地震は、規模が広範囲でありながら史料が少なく、また当時の銚子だけで1000人を超えた人々が暮らしていたのか疑問視される部分もある。とはいえ、その後には海難事故で亡くなった者も供養されるようになっていったことは事実だ。
一説では、この大災害をきっかけとして海の怪談が囁かれ、のちにモウレンヤッサという妖怪話へと形成されていったのではないかとも考えられている。
【参考記事・文献】
村上健司『妖怪事典』
銚子スポーツ 令和2年11月号「山口敏太郎の銚子妖怪図鑑」
千人塚海難漁民慰霊塔
https://japanmystery.com/chiba/senninduka.html
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【文 ナオキ・コムロ】
画像 ウィキペディアより引用