一本松の女は、オカルト研究家であった佐藤有文の著書『いちばんくわしい日本妖怪図鑑』で紹介されている妖怪である。千葉県に出没する妖怪とされており、その挿絵では日本髪を結った一本足の裸の女性として描かれている。
解説によると、一本松の女は松の傍に立って通りかかった人を招き、引きずって足を一本だけ食べてしまう妖怪であるとのことだ。だが、他の文献などでは一切記録がなされていないため、佐藤の創作妖怪である可能性が強いとの指摘もある。
とはいえ、何もないところからいきなり出来上がるということは考えにくく、この一本松の女の成り立ちには何らかのモチーフがあったと考えられている。山口敏太郎によれば、複数の情報ソースがあったのではないかと考えられるという。
まずは、「七廻り塚の怪女」だ。七廻り塚とは、千葉県千葉市に存在する円形の古墳であり、別名「姫塚」と呼ばれている。1958年に生浜中学校(現在の生浜東小学校)の校庭拡張工事に先立って、発掘調査が行われ、道教など多くの出土品が発見された。現在では、千葉市内最大規模かつ最古の古墳の一つとして有形文化財となっている。
この塚が”七廻り”という奇妙な別名で呼ばれるようになったのは、とある伝説が由来であると言われている。伝説によると、その塚には高貴な女性が埋葬されており、片足跳びで塚の周囲を7回廻ると塚の中から機織りの音が聞こえてくるのだという。ここから「姫塚」という別名も生まれたそうだ。
次に、「バラバラ松の怨霊」である。これは、千葉県房総地方に伝わる怨霊にまつわる民話であると言われている。海岸の松の下でとある若い漁師が昼寝をしていると怨霊が現れ、のちにベテラン漁師に相談したところ非業の最期を遂げた者がその松の下に眠っているという話を聞き、以来誰もその松に近寄らなかったという内容だ。
これら「七廻り塚の怪女」と「バラバラ松の怨霊」では、それぞれ片足(一本足)と松というそれぞれの要素が含まれているのがおわかりだろう。すなわち、それらの要素が融合された結果に一本松の女という妖怪が”創造”されたのではないかというのである。
一本足といえば、船橋市では某所の畑に10数センチメートルほどの丸い痕が一直線に続いているのが発見されたこともある。山口敏太郎が「船橋の一本足」と名付けたこの怪異は、千葉県内に一本足の妖怪がいくつも存在している可能性をも彷彿とさせる不思議なものであった。
【参考記事・文献】
千葉妖怪伝説「その五 七廻り塚の怪女」
https://www.mpchiba.com/articles/257.html
七廻塚古墳出土品(市指定文化財)
https://www.city.chiba.jp/kyoiku/shogaigakushu/bunkazai/nanamawaritukakofun.html
千葉妖怪伝説「その二十八 謎の一本足妖怪を追え」
https://www.mpchiba.com/articles/604.html
千葉妖怪伝説「その二十九 千葉県に繁殖する?!一本足妖怪」
https://www.mpchiba.com/articles/608.html
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【文 ナオキ・コムロ】
画像 @カズキヒロ / PAKUTASO