日本は世界の中心であり、歴史上の偉人たちは日本で修行して偉業を成し遂げたとか、余生を送ったとされる伝説は日本各地に残されている。大部分が近代にオカルティストの妄想によって作られた話だが、町おこしには十分に使用できる。
例えばキリストの墓は青森県の新郷村(元は戸来村)にあり、 釈迦の墓は青森県と長野県にある。山口県には楊貴妃の墓があり、 神奈川県の伊勢原にはヨセフの墓がある。
もうなんでもありとい言った状態だが、これらの思想は世界の中心は日本であり、日本人こそ世界で一番優秀な民族であるという国粋主義的な考えに裏打ちされており、昭和初期の軍部暴走の根拠とされた。
中でも人気なのは、石川県宝達志水町に残されているモーゼの墓である。
モーゼと言えばユダヤ人をエジプトから導き、海を真っ二つに割った偉人であり、世界中で知られているビックネームだ。それが日本に来ていたというのだから只事ではない。
日本を代表する偽書『竹内文献』 によると、今から3千数百年年、不合朝第69代・神足別豊耡天皇の時代に、モーゼは石川県で十戒を授かったという。
そして、民を導いたのちモーゼは日本で晩年を送り、583歳の時に永眠したとされている。随分と長生きだが旧約聖書に出ている偉人はこれぐらいの年齢を余裕で生きている。
現在、モーゼの墓は「モーゼパーク」の名前がつき観光地化しているが、町おこしの団体である「モーゼクラブ」が活動中止中という事情もあってか、ここ最近は元気がない。なんとか復活してモーゼで町を盛り上げてもらいたい。
この墓の正体は“三ツ子塚古墳”という古墳であるが、真ん中の墳墓がモーゼの墓だと言われている。戦後まもなくGHQが発掘に来たとか、付近の山にて膝からくるぶしまで2尺5寸(約75センチ)もある“巨人の骨”が出たとも言われている。
確かにモーゼは巨人だったとも言われており、モーゼの骨の可能性もあるが現在、その骨の行方はわからない。また、GHQが正式に発掘作業を行った記録はなく、外国人の有志が趣味で発掘した可能性が高いようだ。
筆者は以前、このモーゼの墓をDVDの取材で訪れたことがあるが、熊が出るから注意という張り紙に言い知れぬ恐怖を感じ、大声で歌を歌いながら森の中を進んだ記憶がある。また、筆者はこのモーゼと認定された人物に大変興味がわく、中東系の人物が古代の日本に渡来し、その伝承がモーゼ伝説に展開したのかと思いたい。
だがやはり、現実的に考えると昭和初期に日本人の妄想から生まれたというべきであろう。妄想はペンより強し・・・
(山口敏太郎 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)