火吹き鳥とは、口から火を吹く鳥の妖怪である。沖縄県八重山地方に怪鳥として伝わっており、この鳥が鳴いて通るところでは、災いが起こるということで忌み嫌われた存在であるという。鳴き声を聞いた時には、「ナーマヤード(長間家)だよ」と唱えながら杵で木臼を三回叩くと魔除けとなり、その災厄を避けることができるとされている。
現地では「ピーフキドリ」と呼ばれており、以下のような伝承も伝わっている。昔、災厄を払って病気を治せる霊力を持ったとある物識(ものしり)がいた。しかし、お上は世を惑わす存在であるとして物識を牢へ入れてしまった。物識は、獄死した後に火吹き鳥となり、村を火の海に焼き払ったという。
火吹き鳥は、佐藤有文の『いちばんくわしい日本妖怪図鑑』の中にも収録されている。本書の解説によると、火吹き鳥は1816年に肥前(現在の長崎県)に現れた怪鳥であった。
ある日の夜遅く、真っ暗な空が突如として夕空のように赤く染まり始めた。驚いた人々が外へ出て見てみると、およそ数十メートルにも及ぶ真っ赤な鳥が飛んでおり、口から激しい炎を吐いてあたり一面の家や山を焼き払い飛び去っていった。沖縄の伝承と日本妖怪図鑑の記述では土地が異なっているが、周辺地域を焼き払ったという点については共通している。
「火の鳥」に類する神話は世界各地に伝わっている。フェニックス、サンダーバード、鳳凰、朱雀など、火にまつわる伝説上あるいはUMAとされる鳥はいくつも類例があり、それらの多くは吉兆の象徴として語られることが多い。
だが、火吹き鳥に関してはその伝承から見るに吉兆の象徴とは到底呼べず、むしろ火を吹いて一面を焼け野原にしてしまうという実害を与える存在なのだ。まるで、聖書にある神罰により滅ぼされた都市ソドムとゴモラや、ラーマーヤナにて光線を発して一面を灰燼に帰したという空飛ぶ乗り物ヴィマナを思わせる。
一説には、この火吹き鳥はゴイサギを指しているのではないかと言われているという。ゴイサギは石垣などではありふれた留鳥として知られている野鳥であるが、夕方から活動が活発化して川池の魚を捕り、夜空から「クワックワッ」という鳴き声がよく聞こえてくるという。
また、ゴイサギは夜中に青白く光ることがあると言われている。これは「青鷺火」(あおさぎび)とも称される現象であり、発光バクテリアの付着あるいは羽毛への光の反射といった説が唱えられている。この青鷺火の姿が火を吹く鳥のイメージとして結びついたのではないかとも考えられる。
また、八重山には「火の神の天送り」という民話がある。ある人物が、困っている老人を助けたのだが、その老人は実は天の使いであり、とある集落の場所を焼き払うよう天の命を受けていたという。しかし、助けてくれた人物の家が含まれていたことから一考し、立てかけておけば燃えないという大きな木札を渡した。その後村は大火事になったが、木札をもらった人物の家だけが無事であったという。
周辺地域を焼き払ったという事象は、そうした事故あるいは災害による実際の大火事がモチーフになっているのではないかと考えられるだろう。火吹き鳥は、そうした出来事に加えて夜に光を放つゴイサギの不気味さが重なり合い、火吹き鳥伝承が形成されたのではないかとも言えるだろう。
【参考記事・文献】
火吹鳥
https://x.gd/ki9MP
とりあえず、火吹き鳥
http://youkaitama.seesaa.net/article/355106797.html#:~:text=%E7%81%AB%E5%90%B9%E3%81%8D%E9%B3%A5%EF%BC%88%E3%81%B4%E3%83%BC%E3%81%B5%E3%81%8D%E3%81%A8
ゴイサギ
https://www.suntory.co.jp/eco/birds/encyclopedia/detail/1420.html#:~:text=%E5%A4%A9%E7%9A%87%E3%81%AF%E3%80%81%E5%91%BD%E4%BB%A4%E3%81%AB%E3%81%95%E3%81%8B%E3%82%89
光る鷺「青鷺火」の真相とは?田園の守り神・鷺のミステリー《前編》
https://tenki.jp/suppl/kous4/2020/07/27/29915.html#sub-title-d
八重山に伝わる民話 「火の神の天送り」 (5)
https://plaza.rakuten.co.jp/runtarunta/diary/200502110000/
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【文 ナオキ・コムロ】