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「池袋暴走事故」と共に巻き起こった社会の暴走?

2019年4月19日、東京都豊島区の池袋都道で起こった通称「池袋暴走事故」は、高齢者ドライバーの運転する自動車が暴走し、男女12名を死傷させた事故である。

スピードを出して走行したままブレーキ痕がなく、数名を轢いた中で母娘の2名が死亡したこの事件は、のちの2021年地裁により加害者の禁固5年という実刑判決が下されたが、単純に高齢者による自動車運転の危険性に留まらない騒動へと展開していった。

この事件への議論がその後拡大していった主な理由は、加害者が元高級官僚であったこと、「容疑者」ではなく敬称で報道されたこと、報道の論調において加害者の責任追及がなされなかったこと、などによるものであったと考えられている。

この事件により、2015年の五輪エンブレム案の盗用疑惑の騒動によりネットで広まった「上級国民」という言葉が、世間やネットにおいて再燃して広まるきっかけともなった。先に述べた敬称(さん付け)による報道は、容疑者が逮捕されていないという状況を見れば真っ当な判断ではあるものの、あれだけ凄惨な事件であるにもかかわらず逮捕がなされなかったという点についても批判が起こった。

加害者の態度も火に油を注ぐ要因となった。事故において「ブレーキの故障」を当初から強く主張し、実際に車両の捜査まで行なわれたものの不具合は全く見つからなかった。にもかかわらず「体力には自信があった」「高齢者が安心して運転できるような世の中になって欲しい」という他人事ともとれるインタビュー回答を行なっていた。

また、ドライブレコーダーの記録から、事故直後に警察や消防ではなく息子へ電話していることが判明し、さらには当時すでに足が不自由となっていたため杖を使用、通院もしていたという事実も明るみとなり、自動車の運転は危険であることは事前に判断し得たことであったこともわかった。こうした一連の加害者の言動に加え、遺族に対する謝罪の言葉が全く聞かれなかったということが、多くの人々に加害者への悪感情を増大させる要因となった。




拡大していくバッシングの中で、その対象は加害者だけではなくその家族にまで及んでいた。ネット上では「家族も同罪だ」「家族も死刑にしろ」といった書き込みも多く見られ、自宅には嫌がらせの電話や手紙も相次いだという。

また、事故直後に息子へ電話をかけたという点についても、実際に息子が電話を受けたのが事故から1時間は経とうかという頃であったため、揉み消しや不逮捕の依頼をしていたのではないかとの疑惑まで浮上した。バッシングの苛烈さは、「早く逮捕してもらいたかった」と家族が漏らしたほどであったという。

「上級国民」というフレーズを意識して、そのことを強調するテレビ番組も多く見られ、中には「医師から運転を止められていたのに運転していた」という事実ではない報道もされたという。

この事件は、加害者の言動のみならず、社会的・経済的な事情のほか司法や警察に対する蓄積された不満などが、「上級国民」というフレーズのもと一挙に爆発したものであったと言える。事件そのものは非常に傷ましいものであり、あってはならないことである。

ただ、怒りの感情に任せた多くのバッシングはより事態を悪化させるものにしかならないことは自覚しなくてはならない。その中には、注目されるために”被害者遺族”を侮辱した書き込みをSNSに投稿し有罪判決となった例すらある。この事故は、多くの社会的心理が絡み合い巨大化していった騒動であったと言えるだろう。

なお、この池袋の事故の前年には、元東京地検特捜部長であった80代の人物が渋谷区で300mほど暴走し一人死亡、その場での逮捕とはならず、車の不具合による無罪を主張するという池袋の事故と似た事故が発生している。

【参考記事・文献】
実刑確定、池袋暴走「上級国民」裁判に残る違和感
https://toyokeizai.net/articles/-/457981
「上級国民」大批判のウラで、池袋暴走事故の「加害者家族」に起きていたこと
https://gendai.media/articles/-/76274
実刑確定、池袋暴走「上級国民」裁判に残る違和感
https://toyokeizai.net/articles/-/457981

【文 ZENMAI】

画像 ウィキペディアより引用 CC0