
これもウェブで広がった現代の妖怪である。山口敏太郎的解釈も踏まえていろいろ解説してみたい。
東北地方のある地域に伝わる話、その地方では「さんのきかの」という鬼(あるいは妖怪)がおり、人間をさらうらしい。その鬼を撃退するには人間の奥歯を見せれば良い。その妖怪は老婆の姿で着物を着ており上品な雰囲気を持っている。しかも、常にニコニコ笑っているらしい。その妖怪の難を逃れるため、その地方では死者から歯を抜き魔除けにする習慣があった。
その地方で泣いている子供がいると、この妖怪が現れて印をつける。その印をたどって夜間に子供をさらいに来る。窓やドアが開いていると危ない。攫われなくても印を付けられた子供は病気になってしまう。その妖怪の名前は忌み名であり、あまり他人に喋ってはいけない。
体験者は庭先に現れた人間とも猿ともつかないものから「(さんのきかの)がくるから、自分でとったと言ってこれを見せろ。その後庭に埋めろ」と言われた。猿が逃げ去った後、昼寝をしていると「さんのきかの」が現れた。早速猿からもらった歯を見せたところ、ニコニコした表情から顔色が変わり、「これはどうしたのか?」と聞かれたので「自分でとった」と答えたところ、中腰になって自分の懐からもう一つの人間の奥歯を出して、中腰のままものすごい速さで立ち去った。体験者は怖いので、すぐさまその二つの歯を庭に埋めた。
体験者に人間の奥歯を渡したのは「しょうじょう」ではないだろうか。また鬼とも妖怪とも思える「さんのきかの」という名前が気になる。「稲生物怪録」に登場する魔王「山本五郎左衛門」は妖怪の頭目であるが、「山ン本五郎左衛」とも書き、発音は「さんもとごろうざえもん」と発する。他にも同書には「神野悪五郎=しんのあくごろう」がライバルの魔王として記されている。いずれも苗字を音読みしている。このことから推測すると「さんのきかの」は、魔王系妖怪ではないのか。筆者は漢字の表記を「山ノ木カノ」と推測するがいかがであろうか。なお、子供に印を付けるという行為は、メキシコの妖怪「ラ・ヨローナ」や日本の妖怪「うぶめ」と似ている。
「人間の歯を魔除けに使う」と言う考え方は非常に興味深い。筆者の事務所に在籍している都市ボーイズの早瀬くんは、細君の歯を魔除けとして持ち歩いている。読者の皆さんも、子供の頃歯が抜けた場合、屋根の上や縁の下に投げ込んだ事はないだろうか。あれも歯を使った魔除けの行為である。原始的な生活を営む未開民族の中には、狼や熊など猛獣の歯を首飾りにして魔除けに使っている場合もある。
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他にも現在アトラスで収集している現代妖怪は次のようなものがある。「雪さま」「七人ぼとけ」「尻切れ馬」「足の生えた焚き火」「山坊主」「にょうらいさん」「チブスマ」「「八尺さま」「めかぁ猫」「むしゃくるさま」「口裂け女」「ミカサ」「テンポポ様」「挑戦ババア」「ゴム人間」「コイヌマ様」「笑い女」「包丁さま」「顔野菜」「蓑坊主」「白ん坊」「ヒサル」「朽縄さま」「ムシリ」「とわとわさん」「隙間さん」「人面犬」「のどかみさま」「アカマネ」「ぐにゃぐにゃおばさん」「トイレの花子」「大根さん」「口裂けヨン様」「えんべさん」「ヒギョウさま」「ミヤウチさま」「おっぺけ様」「ヒザマ」「福鼠」「やまけらし様」「ヤマノケ」「嫌われ虫」「こだまさん」「つくし鬼」「サンコーさん」「さにゃつき」「クロスマさん」「ワニ喰いワシ」「つちおばけ」「ヒデキ」「アガザル」「三四郎」「カバケ」「アトイさん」「釣れないんだね河童」「つむじさん「トランペット小僧」「ゴスロリ天狗」「そうめんばばぁ」「トンカラトン」「青舌」などである。
(山口敏太郎 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
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