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ギャグ漫画界に大変革をもたらした伝説の作品「がきデカ」のその末路

画像 左『がきデカ 26 (少年チャンピオン・コミックス) 』 右『中春こまわり君 (ビッグコミックススペシャル)

日本のギャグ漫画の歴史を語る上で、赤塚不二夫は当然ながら、谷岡ヤスジ、そして何より山上たつひこの名を忘れるわけにはいかない。特に、彼の代表作『がきデカ』は欠くことのできない存在として現在も伝説の作品として語られている。

『おそ松くん』や『天才バカボン』など、ギャグ漫画に革命をもたらしたと言われた赤塚作品であるが、山上の『がきデカ』はそれに次ぐ大変革をもたらしたとも言われている。

『がきデカ』は、1974年から80年まで「週刊少年チャンピオン」で連載されていた漫画作品であり、日本初の少年警察官である主人公「こまわり君」と、彼が通う小学校の同級生たちとのドタバタを描いたギャグ漫画となっている。

本作は、それまでのギャグ漫画とは大きく異なったものであった。山上によれば、吉本新喜劇に影響されたと言うことであり、それによってボケ役とツッコミ役が明確に区別された本作は、最初の漫画作品であるとも言われている。だがそれ以上に特徴的なのは、それまでのギャグ漫画がコミカルなタッチで描かれていたのにかかわらず、『がきデカ』はやや劇画調で描かれていたということだ。

何より「死刑」「八丈島のキョン」「アフリカゾウが好き」といった一発ギャグの数々は象徴的である。リズミカルなギャグを多数生み出したことをはじめとして、劇画調で繰り出されるこうした笑いの表現は徹底した下ネタで構成され、「えげつない」とも言われるほどの異彩を放った。

当然ながら、その過激な下品さから全国のPTAから目の敵にされた作品であったが、その内外で強い影響を及ぼし、社会現象にまで至る作品となった。掲載誌であった週刊少年チャンピオンの売り上げを倍以上に伸ばすほどの貢献を果たし、ジャンプやサンデーを差し置いてチャンピオンの全盛期を築き上げるほどの看板作品となった。

凄まじいことに、『がきデカ』は他作品においてパロディとして取り上げられた範囲が広く、刑事ドラマ『大都会 PARTII』(1977)では「がきデカみてえなツラしやがって」といったセリフが登場し、『ドラえもん』では明らかに「がきデカ」をもじった「ベルデカ」なるコミックの存在をドラえもんが言及し、さらに『DEATH NOTE』では、登場人物がギャグ「死刑」をポーズ付きで言い放つシーンも登場していた。

山上の作品に影響を受けたと公言した人物にはあの手塚治虫もいた。




「小さなコミュニティの中にいる小さいバカが暴走する」というフォーマットについては、『がきデカ』から強い影響を受けていると手塚自身が語っており、さらに手塚は自身の作品の中においても、『ブラック・ジャック』で「がきデカ」の作品名を数度セリフ中で言わせていたほか、「アフリカゾウはきらいっ!」というギャグのパロディも描き、さらにはブラック・ジャックに整形を依頼した人物が「がきデカ」の顔にされてしまうなど、本作がお気に入りだったことがうかがえる。

余談であるが、『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(こち亀)の作者秋元治は、ヤングジャンプ賞に作品が入選した際、『がきデカ』の作者である山上たつひこの名をもじって「山止たつひこ」を名義に使用していたという。さらに賞へ応募した際は、「投稿が編集者の目にとまる」ことを狙い、石ノ森章太郎の名のもじりも加えた「岩森章太郎改め山止たつひこ」というペンネームを利用した。作者のネームバリューも相当なものである。

だが、『がきデカ』の社会的影響や人気ぶりの影で、山上は次第に多忙となったことで気を病むようになり、連載をやめたいという申し入れをしたという。1話完結の連載形式であったことから、いつでも再開できるようにという編集部側の要望によって、最終回とは思えない終わり方をした。

その後、10余年してのち『中春こまわり君』が山上によって描かれたが、往来のドタバタとは打って変わって、こまわり君をはじめとして年月の経過による登場人物たちの悲壮感や喪失感を描いたものとなっている。

30年後の世界を描いた『三十年後のおそ松くん』や15年後を描いたという『劇画・オバQ』といった作品は原作者本人によって描かれているが、前者は一貫してギャグを貫き、後者は原作者による二次創作という位置づけがなされ、パラレルを想定したものであるとの見解が強い。

ギャグ漫画は、たいていの場合年月が進まない前提で描かれるものではあるが、山上の描いた「中春こまわり君」は、あまりの人気ゆえに自分のもとから独り歩きをしてしまった「こまわり君」及びその作品に対する、一つの見切りであったと言えるだろう。

これ以後、彼の手によって続編どころか新たな漫画作品が描かれることはなくなってしまった。

【参考記事・文献】
がきデカ
https://dic.pixiv.net/a/%E3%81%8C%E3%81%8D%E3%83%87%E3%82%AB
<漫画『がきデカ』の面白さって何だ?>『がきデカ』以前・以後ではギャグ漫画のココが違う

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中春こまわり君(山上たつひこ、フリースタイル)は、かつて一世を風靡した昭和のナンセンスギャグ漫画『がきデカ』の未来版
https://x.gd/l6vuu

(黒蠍けいすけ 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)