渋谷駅のシンボル「忠犬ハチ公」の銅像が近いうちに撤去される可能性があることを週刊誌「女性自身」が報じている。
報道によると、撤去されることはないにしても、渋谷駅の区画工事のため移動することは、ほぼ確実とされておりハチ公の引越しは、近いうちに行われるという。
さて、忠犬ハチ公の銅像であるが、約90年前に実在した犬がモデルになっている。亡くなった主人の帰りを9年間も待ち続けていた「ハチ公物語」は非常に有名だ。
しかし、日本でもっとも有名な犬となったハチ公は、生涯は決して幸せとはいえなかった。渋谷駅に毎日現れるハチ公は子供や近くの商店の店主や駅員に虐待を受けたり、子供にいたずらをされたりした。有名になった後も観光客へ見世物として扱われたり、人間の食べ物を与えられ病気にになってしまったという。有名になり、ハチは東宝映画にも出演するが、これもハチの側からしたらはた迷惑な話だったことは間違いない(もっとも動いているハチの映像はこの映画だけなので資料的価値はあるにしても)。
死因はさまざまな説が存在するが、胃のなかから焼き鳥串が数本出てきたため観光客が空腹のハチに串ごと焼き鳥を食べさせたことが原因だったという話もある。
ハチ公の受難は死んだあとも続く。ハチの功績をたたえ、銅像が建てられたものものの、6年後の戦争で金属不足のため一度溶かされており、現在置いている銅像は二代目である。また、ハチ公の悲劇はこれだけではない。なんと戦後にハチ公の孫が「すき焼き」にされ、人間に食べられるいう事件が発生する。
1948年11月12日「毎日新聞」朝刊にこんなニュースが報じられている。
「11月10日 忠犬ハチ公の孫の秋田犬「鉄」がすき焼きにして食われたことが判明。仙台の小間物商佐藤氏に飼われていたが行方不明になり、同市の工員高橋春吉が気づかずに食べてしまった。高橋は占有離脱物横領の罪」
ハチの一族は血統書付きの秋田犬であり、雑種とは違い純血の犬は美味とされていたため、犬泥棒の餌食になってしまったのだ。
いまは美談として扱われる「忠犬ハチ公」。だが美しい話の裏側は意外と冷たいものだ、とハチ公も草葉の陰で泣いているに違いない。
文:穂積昭雪(文化ライター)