筆者・山口敏太郎は、よく作家活動の一環としてライブをよく行う。出演したライブの中には印象的なライブも多い。
2007年の暮れ、都内の某有名ライブハウスで年越しイベントに筆者も出演。百名以上の有料入場者、ネットテレビの視聴者は4千人を越える盛況なものとなった。
イベントは三部構成で、三部は大物ゲストを交えての怪談ライブだったのだが、ここで奇妙な出来事が起こった。
筆者はロフトの舞台上の右端に座っていたのだが、会場奥にある座敷の前に髪の長い女が立っているのだ。顔をやや下に向け、何をするわけでもない。ただひたすらに立っているのだ。
その女の空間だけが、立体感がない。うまく表現できないのだが、まるで写真のようにのっぺりした平面の世界である。女の髪も妙な形に歪んでいる。どうも同じ次元の女性とは思えない。
(どうも、不気味だ、死者のような感覚がする)
肩まで髪の伸びた女、その女は機械のようにゆらゆらと体を動かしている。
当初は変わったイベントなので、個性的な客が立ち見で見ているのではないかと思った。だが、どうも違うようだ。まったくこっちを見ないで、下ばかりみている。
(おかしい、座敷の前にあんな感じで、つっ立っていると座敷の客が見えないじゃないか)
そう思ったのだが、格別不安の声があがるわけでもなく、女は悠然と立ったままである。座敷の客からも見えないとか不平不満もあがらない。そうこうしているうちに舞台の進行に気をとられ、不気味な女の事は忘れてしまっていた。
全てのスケジュールが終わり、座席で飲み会が始まったのだが、観客たちがわいわいと騒いでいる。
「どうしたの? 」
筆者が声をかけると、ライブの観客たちがある事実を説明してくれた。
「この座敷の前に女がたっていたんですが、ライブが終わると突然消えてしまったんです」「私も見ました、髪の長い女ですよね」「僕も見ました、下を向いている髪の長い女性で、てっきりスタッフの人かと思い ましたよ」
この会話に筆者は慄然とする気持ちを抑えきれなかった。怪しい長い髪の女は他にも大勢の目撃者がいたのだ。
それを受けて、他の作家さんのライブなどにも顔を出している怪談好きの常連が、別の怪談ライブでも不気味なことが起きていたという証言を出した。
その時も怪談ライブだったのだが、舞台から見て左側にあるテレビの上辺りに、女性がが手をおいて聞いていたという目撃証言があったのだそうだ。
別の人物の証言によれば、そのライブハウスの舞台から見て左側、座敷の前辺りが特にヤバく、霊感のある人物からは「座敷の前に女がいる」という証言が出てきていたらしい。
大変興奮した。霊を見たという人の証言には共通点が存在していた。
「だからライブはやめられない」
これらの証言を聞いた時、筆者はついそう漏らしてしまった。やはり、怪談はナマモノが一番である。
文:山口敏太郎