フランスの軍人および革命家で、フランスの全盛期を築き上げた大英雄と言えばナポレオン・ボナパルト。「余の辞書に不可能という文字はない」と訳されるセリフでも知られる、世界史でも屈指の知名度を誇る人物である(元々は「不可能と言う文字は愚か者の辞書にのみ存在する」という言葉であったと言われている)。
ナポレオンには、様々な逸話が存在している。白馬に乗った肖像画が有名であるが実際に乗っていたのはロバであった、のちに『英雄』というタイトルが付けられたベートーヴェンの「交響曲第3番」は元々ナポレオンを称える曲として作られた、というような話を聞いたことがある人は多いだろう。
現在、これらの逸話については疑問が持たれており、事実ではないとも言われている。幾何学においても、「ナポレオンの定理」と呼ばれる定理が存在するが、本人が発見したかについてはハッキリと判っていない。こうした”疑わしい”逸話の中でもう一つ有名なのが、「ナポレオンは背が低かった」というものである。
「ナポレオン・コンプレックス」という言葉を聞いたことがあるだろうか。一般的な心理学の用語としては認められていないが、「身長が低い人はそれを補うために攻撃的な性格になる」ことを意味する、いわば軽蔑の意味合いを含めた言葉として20世紀に欧米で広まった。
この用語は、ナポレオンが低身長であることにコンプレックスを抱いており、自分より背の高い人に対して不機嫌で口調が悪い態度を示していたことに由来しているという。
では、実際にナポレオンの身長はどれくらいだったのだろうか・・・
有力なものとしては、1821年に医師のフランチェスコ・アントンマルキによって行なわれたナポレオンの検死解剖の記録がある。それによると、ナポレオンの身長は169cmであったという。これは、当時のイギリス男性の平均身長と同等かそれよりやや高い数値であるため、ナポレオンが低身長であるとは到底言えない。
こうしたナポレオン低身長の俗説が生まれた背景には、さまざまな要因が重なっていたと考えられている。
第一にあげられるのは、彼の周りの兵士が彼以上に背が高かったということである。彼が権力を掌握して間もない頃、フランス軍兵士に対する身長の制限を設けており、擲弾(てきだん)兵は180cm近い身長でなければならず、また先鋭騎兵部隊も170cm以上の兵士で組織されていたという。
このように、人並み以上に背の高い兵士たちに囲まれたことで、ナポレオンが小柄に見えてしまい、実際に彼は小柄なのだというイメージが出来上がったのではないかと考えられている。
また、ナポレオンへ敵対する感情から、プロパガンダとして執拗に揶揄されたという事情もある。18～19世紀のイギリスの画家ジェームス・ギルレイによるナポレオンを小男として描いた痛烈な風刺画はよく知られているが、当時のイギリスの風刺画では、敵対者の軍事的脅威を矮小化させるように印象操作を行なったケースが多かったという。
そうしたナポレオンに対する小柄のイメージを強固なものとしたのは、1920年代に心理学者アルフレッド・アドラーが生み出した「劣等コンプレックス」という概念だ。
この言葉は、体が小さくて社会的に無力な子どもたちが、周囲の状況を変えようと努めることを表す言葉として登場したが、概念が独り歩きした結果大人も対象者となり、ここにナポレオン低身長の俗信が結びついてしまったというのだ。
いずれにせよ、ナポレオンが低身長であること自体が誤りである可能性は高く、何よりナポレオン・コンプレックスの内容自体、確たる証拠の無いものとなっている。背が低い者に対する蔑称の意図で使用されることが多いと言われているため、到底使用をおすすめできる言葉ではない。
【参考記事・文献】
｢ナポレオンは背が低い｣が正しくなかったワケ
https://toyokeizai.net/articles/-/402637
低身長のチビはナポレオンコンプレックス症候群。意味と3つの理由
https://chibidebu.net/napoleon-complex/
背が低いと支配的に？ 「ナポレオン・コンプレックス」は本当か
https://news.yahoo.co.jp/articles/c338c1e6d45591bd6c94530e259b2c6cc4d36c36
ナポレオンの身長は低くなかった！？ナポレオン・コンプレックスなどと言われるが実は・・・。
https://world-note.com/napoleon-height-truth/
（ナオキ・コムロ 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部）
画像 ウィキペディアより引用
