『超人バロム・1』とは、漫画家さいとう・たかをの作品『バロム・1』を原作としてヒーロー物にアレンジされた、1972年放送の特撮テレビドラマである。
白鳥健太郎と木戸猛が互いに腕をクロスさせることで一体のヒーローへと変身する合体変身を特徴としており、また悪の化身ドルゲの尖兵であるドルゲ魔人が怪奇さやグロテスクさを強調するデザインとなっていることでも知られるが、わずか35話という比較的短期間の放送で終了してしまった。
この放送終了は打ち切りであるといわれているが、その原因となったのではないかと言われている出来事があった。
事の発端は1972年8月25日。朝日新聞に『魔人ドルゲは僕じゃない』『友達がいじめる』『同姓の坊や仮処分申請』といった見出しが掲載され、日本在住のドルゲ姓のドイツ人が、放送局に抗議し作中の悪の親玉であった「ドルゲ」という名前の指し止めを仮処分申請したというのである。
同年9月26日には『悪玉ドルゲ、童心に降参 11月で姿を消します』との見出しによって、第29話以降、番組のOPタイトルの最後にフィクションであることを示す今ではお馴染みの注釈テロップが挿入されるようになったという。
この「ドルゲ君事件」は後に、新たな展開を見せることとなった。テレビ東京『やりすぎ都市伝説』にてタレントの伊集院光が、「きっかけとなったドルゲ氏に会ってみようというテレビ局の企画により探したが見つからなかった」「八王子で開業医をしているドルゲという人物の住民票も無かった」「根も葉もない手紙で決定してしまったらしい」と話したことで、再び話題となったのだ。
「抗議をしたドルゲという人物は実在しなかった」というこの新説であるが、この内容については疑わしいという意見も出ている。もともと紙面に掲載されていた当時、ドルゲという人物は「神戸市在住の音楽講師」と記されており、当時音大教授であったアルント・ドルゲという人物が兵庫県に実際に在住であったことが確認されている。なぜ、 新説で「八王子在住の開業医」となっているのかについては不明である。
また、当時の「息子がいじめられた」という朝日新聞の記事と見出しについても、実際はいじめを受けているわけではなく、「いじめられる可能性があるため、実在の人物とは無関係であることを番組内で知らせて欲しい」という要望であったこともわかった。ちなみに、社会問題ともなったと言われるこの出来事であるが、この問題について取り上げたのは朝日新聞だけであったようだ。
さて、打ち切りのような形で終了したと言われている本作であるが、ドルゲ君事件の尾を引いたためであるのかと言えば、そうとは違う事情があったとも言われている。一つは、視聴率の問題や同時期の「仮面ライダー」人気を超えられなかったという事情があったと言われ、このことはプロデューサーであった佐野寿七(さのじゅしち)が実際に語っている。そしてもう一つは、テレビ局の労働組合からもドルゲという名に対して抗議があったというものである。
当時の放送局の労組は共産党の影響が強かったとされており、「ドルゲ」という名が共産党の英雄とされるソ連のスパイ「リヒャルト・ゾルゲ」を思わせ、侮辱にあたるということで一部から抗議がなされたというのだ。
このように見れば、『バロム・1』のこうした一連の事件は、単にドルゲ君という人物に絡む出来事に限ることではなく、人気の状況や放送局の事情といった当時の時代背景に翻弄されたものであったと言えるだろう。
【参考記事・文献】
超人バロムは「ドルゲ事件」で放送打ち切りになったのか?!
https://wow-media.jp/w00164/
魔人ドルゲのひみつ
https://ameblo.jp/matasichi/entry-12690585092.html
超人バロム1「ドルゲ事件」の真相
https://plaza.rakuten.co.jp/jyoudankeri/diary/201708020000/
(ZENMAI 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)