グリゴリー・ラスプーチンは、19世紀後半から20世紀初頭にかけて存在していた自称祈祷僧である。
当時のロシア帝国ロマノフ王朝を影で操っていたと言われる怪僧として知られ、その異様とも言える迫力ある風貌も相まって数々の逸話を残し、現在に至るまでも多くの作品にモチーフとして描かれている。
1869年にシベリア・ポクロフスコエ村の農民の子としてラスプーチンは産まれた。もともと素行の悪い不良少年であった彼も、結婚した後は子どもにも恵まれ落ち着いたようであるが、ある時宗教に目覚めて巡礼の旅に出ることとなった。数年後に村へ帰ってきた彼は農民を中心とした小集団を形成し、この頃から病人をヒーリングで治癒するなど能力者としてのカリスマを有していたようである。
その評判からサンクトペテルブルグに呼ばれた彼は、瞬く間に貴族の中でも話題となり人気が高まった。この時期のヨーロッパは、アメリカのフォックス姉妹が引き起こしたポルターガイスト騒動「ハイズビル事件」の影響によりスピリチュアルブームが広まっており、その真っただ中に現れたラスプーチンは特に注目された存在となったのだ。
この頃、皇帝ニコライ2世と妻アレクサンドラの子アレクセイが血友病によって苦しんでおり、いかなる医師でも手に負えない状態であった。そこで皇帝は、評判があがっていたラスプーチンを呼んで病の処置を頼んだところ、なんと祈りやヒーリングによって回復させたというのだ。このことがきっかけとなり、皇帝一家は彼に絶大な信頼を置くようになり、のちに政治の助言についても彼を頼るようになった。
第一次世界大戦が開始すると、人々は徐々に帝室の政治に不満を強めていった。それに加えて貴族内でも、ラスプーチンが贔屓されていることに嫉妬や不満が高まっていたのだ。そして1916年、フュリックス・ユスポフらによってラスプーチン暗殺が計画されることとなる。ユスポフはラスプーチンを自宅に招き入れ、大量の毒を盛った食事を与えるが、なんと彼は平然としており全く効かなかった。
ユスポフは思わず仲間たちと共に彼へ数発発砲をしたが、ラスプーチンはもがきながらも息絶える様子がなく、ついには川へ投げ捨てられたという。数日後、川から上げられた死体が解剖された結果、ラスプーチンの死因は溺死であったというのだ。つまり、毒を盛られても、心臓や頭に銃弾を撃ち込まれても、彼は生きていたのである。
だが、彼の暗殺は焼け石に水でしかなく、その後ロシア革命によってロマノフ王朝は滅ぶ結果となった。なお、このことについて彼の死後、とある手記が見つかったと言われている。そこには「私が農民に殺されるなら王朝は安泰であるが、貴族に殺されるなら2年以内に滅びる」という予言めいた内容が書かれていたという。
彼のこのような驚くべき逸話や、この他にも多くの女性に手を出した性豪としても語られ、恐ろしい悪役として描かれることが多いラスプーチンであるが、彼の奇行や逸話の中にはネガティブキャンペーンを意図した捏造もあると主張する者もいる。晩年は貴族からの反感もあり、可能性としてあり得ない話ではないだろう。
実際のところ、彼は最後まで戦争に反対しており、金銭には無頓着で大金を欲しがらず当人は質素な生活を送っていた。また、皇子をとても可愛がり、国を憂いた好人物であったという証言もある。彼は救世主だったのか、それとも裏で糸ひく黒幕であったのか、今でも意見は分かれているところだ。
余談であるが、ハリウッドにおいて「架空の人物・物語です」という注意書きがなされるようになったのは、ラスプーチンを題材とした映画『怪僧ラスプーチン』(1932)に対し、暗殺の首謀者ユスポフの妻から訴訟が起こったことが始まりだと言われている。
これも、死後にまで影響を及ぼすほどの彼の力の一端なのだろうか。
【参考記事・文献】
・ロマノフ朝を悩ませた五つの「呪い」：実現したのか、偶然の一致か、はたまた単なる風説か…
https://jp.rbth.com/history/86179-romanov-cho-nayamaseta-noroi
・ラスプーチンとは？「グリゴリー・ラスプーチン」ロシアの怪僧について語っていく！
https://world-note.com/rasputin/
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（ZENMAI 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部）
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