全員が足音の恐怖に支配されると、更なる怪異がはじまった。
「うわー、なんだ!」
突如一人の職人が悲鳴をあげ、首を押さえてもがき苦しみはじめた。
「く、苦しい」
今度は違う職人が喉を押さえながら声を上げた。こちらは涎を垂らし悶絶している。あちこちで声があがり、一人づつ苦しみながら転げ回った。
「の、喉が・・・」
社長も例外ではなかった。いきなり苦しさに襲われ、職人たちが転げ回っている理由を理解した。
見えない何かによって首を絞められているのだ。物凄い力で、喉に圧力がかかっていく。錯覚などではなかった。見えない何かがいて、それは息の根を止めようとする明確な意志を持っていた。社長は必死に見えない存在を振り払うと、職人たちに向かって叫んだ。
「みんな、逃げろ! ここはやばいぞ!」
得体の知れない恐怖感に駆られ、屈強な男たちは全員、屋敷を飛び出した。ご主人が話し終える頃には夜も更け、民宿は静まりかえっていた。
「ご主人、なんでまた、その廃屋に霊がとりついたんでしょうか」
主人は頭を捻るとこう答えた。
「知人でもある屋敷の所有者に聞いたんですが、彼が住んでいた頃からポルターガイスト現象が頻発したんだそうですよ」
「なるほど、岐阜の幽霊団地騒動みたいですね」
主人はコーヒーカップを置きながらこう言った。
「結局、霊能者に見て貰ったんですがね。その霊能者によると、この屋敷の敷地で亡くなった山伏の祟りにより怪現象が起きていると。ある高僧を呼べば調伏できると…思う、と言われたそうです」
「できると思う…ですか、随分と気弱な」
「結局、その高僧でも確実に調伏できるかどうか不明なのに、呼ぶ意味があるのだろうか。それなら、いっそこの不便な山中の屋敷を放棄してはどうだろうか、と家族で結論をだして、その屋敷を出てしまったのです」
こうして遠野最強の廃屋ができあがったのである。
(監修:山口敏太郎 ミステリーニュースステーション・アトラス編集部)
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