最大9連休となった今年のゴールデンウィーク。ATLAS読者のなかには友人や家族と一緒に動物園へ行ったという人も多いことだろう。今回は昭和時代の動物園で発生した痛ましい事件をひとつご紹介したい。
1972年5月22日午前10時頃、北海道の旭川動物園で飼育されている象の「タロー」(※「タロウ」の表記もあり)がゾウ舎の掃除中の飼育員を襲い殺害するという事件があった。飼育担当のAさんは背後から鋭い牙でタローに襲われ、床のコンクリートに叩きつけられて内臓破裂で即死の状態だったという。
この日は朝から近所の小学生を含めて約200人近いお客さんが旭山動物園に来園。ゾウ舎の前にも十数人の見物人が集まっており、「ゾウが人間を殺害する」というショッキングな光景を多くの人が目撃する事態となってしまった。当時事件を報じた朝日新聞によると「悲鳴と同時に床に叩きつけられる鈍い音がした」「ゾウがこんなことをするんだ…」という事故の模様を目撃してしまったお客さん(子供を含む)のコメントを掲載している。
タローは普段はおとなしいゾウだったが、この日はたまたま虫の居所が悪かったことで、Aさんを攻撃したという。なお、他にもゾウによる事故は1956年に井の頭自然文化園で発生した、ゾウのはな子による事件が有名であるが、お客さんの目の前で飼育員を殺されてしまったのはこのタローの事例が国内唯一である。
またこれと同様の事件は、1994年8月20日アメリカ・ハワイ州ホノルル市でも起こっていた。サーカスの象、タイクが調教師を殺害し、その後逃走した。30分ほど街中を走って逃げたが、最後は90発近い銃弾を浴びて射殺された。なお、この模様はテレビニュースで当時何度も放送されたことで、殺害されたタイクに憐れむ声が多く集まり、のちに動物愛護を深く考えるキッカケを作ったといわれている。
なお、旭山動物園の公式サイトの「旭山動物園ヒストリー」にはこのタローの事件は封印されることなく、包み隠さずに記録されて、「安全対策や管理などについて再度見直されることになった」と記載されている。動物園関係者や周囲の理解もあり、タローは殺処分にはされなかったが、事件から5年後の1977年1月に病気により享年13歳という短い人生を終えることとなった。(※野生の象の平均寿命は60~70年であるが、動物園の象はその半分くらいといわれている)
以上のような事情のため、タローに関する資料はあまり一般的にあまり出回っていないが、世の動物園ファンは決して忘れてはいけない痛ましい事件のひとつであろう。
(文:穂積昭雪 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
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