快適だったはずのYさんの部屋は、得体の知れない恐怖に支配される空間に変わっていた。日々繰り返される深夜の配達は相変わらず続いていて、置かれる荷物は次第に重くなっていくようであった。
Yさんは疲労から次第に体調を崩し、精神的にも追いつめられるようになった。そんなある日の深夜、また物音が聞こえてきた。
「ずるり、ずるり、ずるり」
荷物を持っているというよりも、何かをひきずっているような音だった。その物音は急に途切れ、しばらくしてから再び始まった。
「ずるり、ずるり、ずるり」
数分間かけて、ようやくYさんの部屋のドアまで辿り着いた。
「ゆうびんです」
明らかに何か巨大なものが運び込まれていたようだった。
「ドスン」
重さがあって柔らかいものが投げ置かれたような音が聞こえた。もうYさんにはこれ以上耐えられなかった。すぐに家の手配をして、引っ越しをすることにした。
引っ越しの準備で家の中のものを整理していると、見たこともないノートが出来た。それはどうやら前の住人が残したノートのようだった。越して来た時には無かったはずのものが不意に出て来たことにYさんはひどく驚いたという。
ノートは、前の住人だった女子学生と郵便配達員の彼氏との交換日記のようなもので、文字がびっしりと書き込まれていた。
「でもそのノート、途中で終わってたんです。『彼氏が怖い』っていう記述を最後に」
(山口敏太郎 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
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