妖怪

21世紀に復活!地震を呼ぶ本当は凶悪な妖怪・子泣きじじい

妖怪マンガと言えば誰もが思い出す、水木しげる氏の著作『ゲゲゲの鬼太郎』シリーズ。この作品で主人公の鬼太郎をサポートする仲間たちのひとりとして登場しているのが子泣きじじいだ。

山口敏太郎の故郷、徳島県出身(出身?)の妖怪である。山の中で泣いている赤ん坊がいるので、哀れに思って抱きかかえてやるとその顔はしわくちゃの老人。驚いて手放そうとするも手が離れず、赤子は急に石地蔵のように重くなって……というものだ。

この後は精気を吸われる、魂を取られる、押しつぶされて死んでしまうなど何パターンかあるが、これは後つけの設定であり、うぶな伝承とは言いがたい。基本は、山中で赤子の声が聞こえる怪異だと解釈するのが無難なようである。




漫画では終始お茶目なおじいちゃんキャラで強面の表情は見せなかったが、実は意外に凶暴な妖怪なのだ。地元の郷土史家、多喜田氏の研究によれば、この地には『山中で赤子のような声を上げる老人』が度々目撃されており、子どもたちが不気味に思っていたと同時に、親達がこの人物の存在をしつけのため度々引き合いに出した事もあって、地元で妖怪として認識されるようになったのではないかとの事である。

また、徳島県美馬市の伝承では一本足で山中を徘徊する妖怪として伝えられており、更にこれが泣くと地震が起きるとも言われている。このように、何かしらの不穏な背景を持った妖怪であることは事実のようだ。

だが、21世紀に入り「こなき爺」の目撃談が地元の新聞に踊った。「徳島新聞」(2006年9月23日)の、コラム「阿波圏」に「子泣き爺」のタイトルで、西池冬扇(エンジニア・ひまわり俳句会主宰代行)氏が「子泣き爺」出没について報告しているのだ。

その記述を紹介しよう。

『子泣き爺氏にもどる。氏は時々徳島に戻ってきているようだ。この初夏、祖谷に泊まった。夜、廊下の暗がりでバッタリ氏に出会ったのである。暗いのと驚いたので、しかといえぬが、人形でなくご本人であったと信じている。証拠に翌朝大きな地震で目が覚めた。どうやら祖谷あたりでは氏に郷土のため一肌脱いで欲しいと考えているようだ』

勿論、氏一流のジョークの可能性が高いのだが、こういう話が流布されることで妖怪伝説は未来へと残されていくのだ。それにしても、”こなき爺が出没すると地震が発生する”という伝承どおりの事態が引き起こされたのは、大変興味深い事実ではないだろうか。




それと、これはあくまで筆者の推論に過ぎないのだが、『オカルト博士の妖怪ファイル』(朝日新聞出版)にて披露したように、山中で赤子の声で泣く妖怪「こなき爺」の正体は、地震が発生する前段階のプレートの軋む音ではないだろうか。我々の先祖は、プレート移動により引き起こされる不可解な音を妖怪「こなき爺」の泣き声として表現し、地震発生の予知としたのかもしれない。

現在、こなき爺が出没したとされる徳島県三好市山城町上名には、「児啼爺の像 (こなきじじいの像)」が建立されており、新たな観光名所になっている。なお、厳密に言うと実際こなき爺が出たとされる場所は、この像からさらに山中に踏み入った場所にあり、京極夏彦氏が一文を寄せた碑文が建立されている。

(監修:山口敏太郎)