(その1)から続く
「だから、山口さんに鳥の妖怪がいるのかって聞きたかったんですよ」
私は興奮を抑え切れなかった。鳥のような姿、そして赤ちゃんへの興味。
それは間違いなく伝承妖怪のうぶめの性格なのだ。この21世紀にも、うぶめという妖怪現象はありうるのか。
「いかん、そりゃ、うぶめだよ」
私の言葉に彼女が反応した。
「だって、うぶめは赤ちゃんを抱いた女性の妖怪ですよね」
「いや、うぶめは鳥の姿になることもあるんだよ。赤ちゃんの布団や服を夜も外に干しっぱなしにした記憶はないかな?」
私の問いに彼女は声色を変えた。
「あぁぁ、そうだ。その日は赤ちゃんの服を出しっぱなしだった」
不思議な事に伝承どおりであった。民俗学に疎い彼女が、話を合わせているとは思えなかった。うぶめは赤ちゃんの布団や服が夜間も外に出されていると、その家の子供に目をつけるのだ。
「いかんぞ、いかん! ここまで伝承どおりだとは不気味だね。赤ちゃんの命が危ないかもしれない」
私は動揺を抑え切れなかった。
「山口さん、どうしたらいいですか」
半泣き状態の彼女を放置するわけにもいかない。それに、ことは一刻を争う。
「密教のお坊さんに相談してみよう」
至急、関西の密教僧に連絡をとり、怨霊退散の祈祷を依頼した。この僧侶は正式な免許のある某宗派の僧侶だが、拝み屋もやっているのだ。
「何か、方法があるかね」
筆者の問いに、僧侶は答えた。
「お子さんの髪の毛を焚き上げて、うぶめに持たせましょう」
「なるほど、髪の毛を焚く事でダミーを掴ませるのか」
筆者もこの作戦に同意した。至急、子供の髪の毛が宅配便で寺院に送られ、祈祷が開始された。祈祷は遠隔地からでも効果があるのだ。
すると、何日目かにうぶめが再び来襲した。
「絶対にこの子は渡さないわ」
彼女は身構えた。またあの足音が聞こえたが、恐怖感というものは大分薄まっていた。
「どういうことなの? 」
勇気を振り絞り、薄目を開けた彼女はある変化に気がついた。何故か、うぶめの足の色が紫に変わっていたのだ。
僧侶に聞くと、それは妖怪化した女の霊が浄化する前兆だというのだ。
その後、再び鳥の魔物が訪れることもなく、怪異は収まっていった。赤ちゃんも無事に育っている。
それにしても、不思議である。伝承で言われたとおりの怪異現象が起こっているのだ。予備知識のない女性が、伝承どおりの怪異証言をしているのだ。これは、妖怪がいるとしか思えない。
妖怪などいないとする考え方、それは人間の奢りである。
(聞き取り&構成 山口敏太郎 ミステリーニュースステーション・アトラス編集部)