筆者が通っていた小学校には明確な七不思議といったものはなかったが、音楽室には不気味な噂があった。ベートーヴェンの肖像画にまつわる噂だ。
内容はよくある「目が動く」という類の話だが、我が母校では「ベートーヴェンがこちらを見ているように見えたら死期が近い」という物騒な話になっていた。
モーツァルトやバッハ、シューベルトといった偉人たちが並ぶ中、険しい表情で空を睨むベートーヴェンは曲のダイナミズムや壮絶な音楽人生も相俟って、ひと際強いインパクトがあった。ベートーヴェンの肖像画だけは絶対に見ないようにしている子らもいた。当時5年生だった筆者も万が一目があってはいけないと全ての肖像画を見ないように心掛け、うっかりバッハと目が合った時は危うく死ぬところだったと冷や汗をかいたものだった。
ある時、当時週一で行われていたクラブ活動のために運動場へ行くと後輩で3年生のK君が友達と大騒ぎをしていた。ベートーヴェンに睨まれたのだという。嘘だ、本当だ、お前そのうち死ぬぞといった話からやがて怪談話なども交えて皆で盛り上がったが、次のクラブ活動の日にK君は来なかった。訊くと肺炎で入院したとのこと。しばらくK君を見なくなったある日、筆者は奇妙な体験をする。
帰宅途中にやたらと生き物の死骸を見かけるのだ。その日は前日の大雨の影響で地面は濡れ、川の水位は上がり激しく氾濫していた。空き地に捨てられた鼠捕りかごに入った鼠の首、川を流される何十羽という鳩、水の溢れたどぶ川に浮かぶ土竜の死骸、たかだか10分程度の帰り道でさすがに生き物の死に遭遇しすぎる。怖くなった筆者は走って帰り、家の玄関を開けるなり大声で母親を呼んだ。すると奥から母親が血相を変えて出てきてこう言った。
「今、電話があって、あんたの仲良くしてたK君、病院で亡くなったって!」
小学生にとって身近な同年代の友達の死は大きなショックだった。同時にK君がベートーヴェンに睨まれたと言っていたことを思い出した。以来、筆者は教壇の上の肖像画は一切見ないようになった。
今でもベートーヴェンの画像は自発的には検索しない。因果関係など信じてはいないがK君が亡くなったのは事実であるし、なんだか気味が悪いのだ。
皆さんもベートーヴェンを画像検索する際は、くれぐれもご注意を。
※写真はウィキペディアより
(おおぐろてん ニュースステーション・アトラス編集部)