まずは上の絵画を見てみて欲しい。
両脇を木立に挟まれた小道を、赤いスカーフを頭に巻いた黒い服の女性が手前に向かって歩いてきている。手前には女性に告白でもするのだろうか、斜面の影に隠れた男性がピンクの花を手にしゃがんで待っている様子が描かれている。
微笑ましい風景だが、女性の手元を良く見てほしい。現代の若者のように、まるで手の中にあるスマートフォンの画面を見ながら歩いているように見える。
この作品は今から150年程前、1860年に描かれた油絵だ。19世紀の人々が、現代のハイテクの塊であるスマートフォンを手にする事が出来たというのだろうか?
もちろんこの絵はタイムトラベラーの女性や、オーパーツを手にした女性の姿を描いたものではない。
フェルディナンド・ジョージ・ヴァルトミュラー作「The Expected One(期待されるもの)」という作品で、手前の男性は女性に恋しており、彼女の良い返答を期待しているのだろうが敬虔な女性の視線は手元の祈祷書に向けられている……という様子を描いたもの。
この絵はドイツ・ミュンヘンのノイエ・ピナコテーク美術館に飾られているのだが、2017年に「iPhoneに夢中になっている女性を描いた絵」として話題になった。
もちろん、最初は絵の主題を把握している人達によるジョークだったのだが、初めてこの絵を見た人達が「本当に昔の絵にiPhoneを操作している人が描かれている」と考えてしまったことで有名になってしまったようだ。
絵の女性がスマートフォンを見ているようだと最初に気づいた人物、Peter Russell氏は次のように語っている。
「私が最も印象的に感じるのは、テクノロジーの変化がこの絵の解釈をどれだけ変えたかということです。絵の描かれた当時、1850年や1860年には少女が夢中になっているものが祈祷書であることを、見る人すべてが確認できたはずです。しかし今日、10代の少女がスマートフォンでソーシャルメディアに熱中しているシーンに似ていると思わない人はいないでしょう」
(山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
画像 The Expected One by Ferdinand George Waldmüller