視聴者ショック死！？悪役レスラー「フレッド・ブラッシー」噛みつき、流血試合

フレッド・ブラッシーは、アメリカのプロレスラーおよびプロレスのマネージャーとして活躍した人物。反則の噛みつき攻撃を得意とし、その風貌から「ヴァンパイア」「銀髪鬼」と呼ばれ、日米共にレスラーたちから恐れられていた。

1918年にミズーリ州で生まれた彼は、10代の頃からカーニバルレスリングの試合に出場。当初は正統派のレスラーであった彼が、ヒールとして目覚めるきっかけとなったのはジョージア州にて興行に赴いた時のこと。

言うなれば片田舎とも言えるその地の観客は、彼がどれほど愛想を良く振る舞っても罵声を浴びせたほどに気が荒かった。ついにある日、堪忍袋の緒が切れた彼は観客に向かって「変態野郎！」と絶叫、一気に会場は殺気立つようになり、このことが彼をヒールとして覚醒させた瞬間となったという。

1962年4月、この時彼は日本中から恐れられるほどの試合を展開させることとなる。

4月23日、東京体育館で行われたWWAヘビー級選手権にて、彼は力道山と戦うこととなった。1ヶ月前、ロサンゼルスで行なわれたWWA王座を奪った力道山との再戦となったこの時、彼は力道山の腕に噛みついた。

絶叫をあげた力道山であるが、さらにブラッシーはその額に噛みついたため鮮血が流れた。結果としてこの試合では、力道山がリング下から体当たりを繰り出したことでブラッシーは頭を打ち失神するに至った。

そして4月27日、日本プロレス史に残る騒動が巻き起こった。

神戸市王子体育館にて開催された第4回ワールド大リーグ戦にて、力道山、豊登、グレート東郷とブラッシー、ルー・テーズ、マイク・シャープによる6人タッグマッチが行なわれることとなった。

彼のその執拗な噛みつき攻撃を食らったグレート東郷は、額から大流血、古傷を裂かれ、ブラッシーの銀髪も赤く染まり、マットには血の池ができたほどであったという。

伝説となったのは、この試合のテレビ中継を見ていた70代女性、60代男性がショック死と紙面で報じられたことにあり、後日力道山戦においても6人がショック死と報じられる異常事態になった。

これらの人々の直接の死因が、本当に試合を見てのショック死であったかについては疑問もある。

だが、カラーテレビが登場し始めた時期であったこのころ、真っ赤な鮮血が映し出された映像の衝撃ぶりは言わずもがなであり、一方でモノクロによってコールタールのように真っ黒に映る血は、むしろカラーよりも不気味さを増していたとも言われている。また、ショック死と報じられた人々はみな高齢者でもあったとのこと。

このことは社会問題にも発展したが、時代というものもあってか当面のカラー放送の見合わせという処分で落ち着いた。

さて、当のブラッシーは、来日している外国人選手ということもあって事実上の無罪放免となっているが、その一方では「アメリカでは60人以上死んでる！」など悪態をついた姿も印象深く残ることとなった。しかし、その裏でブラッシーは、画面の向こうとは言え死者を出してしまったことには非常に心を痛めていたという。

実際、ブラッシーは非常に親日家であったと言われている。

彼の後妻が来日の際に知り合った日本人女性であったこともそうであるが、何より彼が驚いたのは日本の治安の良さであったという。かつてのアメリカでの活動時もそうであるが、彼はそのヒール役という立場から、本物の凶器を持った観客に襲われるということも少なくなかった。

日本では、全くそのような事態が起こることはなく、仕事をする場としては非常に最適な環境であったとも言えるだろう。

「1962年に初めて日本に行って以来、日本行きをいつも楽しみにしていた。たとえ観客が私にブーイングを浴びせようとも、尊敬を持って接してくれた」と彼は自伝で語っている。

2003年6月、ニューヨーク郊外の病院にて銀髪鬼は死去。コンプライアンスなどが強まる現在においては、彼のような流血試合を継承する者はまずいなくなった。彼のヒールとしての活躍は、時代が生んだ一つの伝説であった。

【文　ZENMAI】

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