皆さんは最近X(旧Twitter)で話題になっている奇妙な画像をご存知だろうか。
ぎょろりとした目に耳まで裂けた口、尖った耳。手足はひょろ長く、尻尾もあるようだ。奇妙なことに、掲げた右手は光り輝いている。どう見ても悪魔や妖怪と思われる怪物が、笑顔を浮かべてこちらを見ている様子はなかなか不気味なもの。
この怪物の絵が、例えば「飲み会でやって来た誰も知らない奴」等のキャプション付でネタとして投稿されることがしばしば見られた。果たして、この怪物の正体は何なのだろうか。
— 雪の降る街 (@sub__aprt) November 14, 2024
— ニッビシティー (@Nibi_Cityy) November 17, 2024
ヤンガンイタンのきゅうくらりん pic.twitter.com/mmZb4lhCXx
— りあな (@ri_a_cos) November 17, 2024
タッチから相当古い海外の作品であろうことが伺えるが、正体までは知らない人が多いのではないだろうか。
この怪物の正体はヤン=ガン=イ=タン(Yan-gant-y-tan)、フランスのブルターニュ地方に伝わる「鬼火」である。主にブルターニュ地方フィニステール県(フランスの最西端)で語り伝えられてきた悪魔の一種で、夜にまるで燭台のようになった右手の五本の指に蝋燭の光を灯しながら徘徊する。
これと出会うと近いうちに不吉な事が起きるとされていたため、昔からこの地方の人々は夜に奇妙な光を目撃したら近づかないようにしていたという。
ヤン=ガン=イ=タンは掲げた炎を常に回転させており、火を消さないよう素早く動くことができない。そのため、近づきすぎなければ逃げる事もできるようだが、街道の道標の下に金貨の小袋や金の鎖を埋めておけば、少なくとも翌日はその近くにはやって来ないとされていた。
Xで話題になったヤン=ガン=イ=タンの絵は日本でも翻訳され、有名になったコラン・ド・プランシーの書物『地獄の辞典』に掲載されていたものだ。この書物は様々なオカルト関係の事象を辞書形式で紹介したものなのだが、ブルトンによる悪魔の挿絵が素晴らしく悪魔の辞典として紹介されることも少なくない。
プランシーはこの悪魔を紹介する際に「夜のさすらい人」としていたようだが、名前を直訳すると「火を携えたジョン」に近いものになるため、イギリスの「ジャック・オ・ランタン(ランタン持ちの男)」と同じ鬼火と同様のものと考えられている。
手に蝋燭の火を灯している、という点は中世に存在した「栄光の手」という死体を元に作られた呪物との関係が深いとも言われている。
中世ヨーロッパでは樹脂ではなく動物の脂肪で作った蝋燭も多かった。中でも人間の脂肪を使った蝋燭は特別とされており、絞首刑になって死んだ罪人の手を乾燥させたもの2塗って蝋燭を作ると、火が灯っている間は周囲の人を動けなくさせることができるという。
この「栄光の手」の伝説と、鬼火の伝説が合わさって生まれたものが悪魔ヤン=ガン=イ=タンのようだ。
このように不気味かつ当時はそれなりに恐れられていたヤン=ガン=イ=タンだが、まさか数百年経って極東の島国で人気になるとは本人(?)も思っていなかったのではないだろうか。
(山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
画像 ウィキペディアより引用