埼玉県と群馬県の県境に、神流湖(かんなこ)と呼ばれるダム湖がある。日本最大の人工湖でもあるこの神流湖の周囲は、木が生い茂る山々にかこまれているのだが、そんなへんぴな場所に一件の家が存在する。
それが“新井さんの家”である。
現在では、周囲の自然と同化する廃墟となっているが、数々の怪現象が語られる心霊スポットとなっている。一説には昭和の後期頃まで、新井家が所有する別宅だったと言われているが、この家で非常に凄惨な事件が起きたのだという。その事件には、神流湖に造られた下久保ダムの建設と関係があるとされており、諸説ささやかれている。
新井さんは下久保ダムを建設するためにやってきた工事業者のひとりだったという。別の話では、現在はダムの下にある村の住人であり、ダム建設に反対する立場の人間だったとも語られている。
当地には「新井」の性を持つ人間が多いことや、家のすぐ側に「新井家之墓」と銘打たれた墓があることからも、地元に古くから住む反対派の人間だったと考える方が自然だろうか。その新井さんの家は抗議活動の拠点とするために建てられた別宅だとも言われているが、その家で陰惨な事件が起きる。
精神をおかしくしてしまった新井家の主人が、妻や子供たち家族全員をチェーンソーで惨殺し、その後自分も風呂場で自殺してしまったのだという。
新井さんが精神を病んでしまった背景には次のような話が語られている。抗議活動もむなしくダムは建設されることになり、当地にあった村の人々は立退料をもらい去って行った。新井さんの家はダムの建設地から離れていたため立退料をもらえるようなこともなく、村のみんなが去ったあとも取り残されてしまった。それが新井さんが精神を狂わせた原因なのだという。
“新井さんの家”には様々な怪異が語られている。最も有名なのはこんな話だ。
ある人間が新井さんの家に肝試しにいき、残されていた物を持ち帰った。帰宅後、電話がかかってきたので出てみると、「返せ!」と言われるというものである。
他にも、新井さんの家に向かって声をかけると誰もいない家の中から「はい」という答えが返ってくるというものや、首の無い子供を見たという話もある。
(山口敏太郎 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
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