モンキー・パンチ原作『ルパン三世』に登場する、ルパンを追い続ける存在と言えば銭形平次の子孫(6代目)でお馴染みの銭形警部。
アニメから始まった「とっつぁん」の愛称で広く知られており、またそのトレンチコートにソフト帽という独特の服装は、アメリカのコミック「ディック・トレイシー」がモデルになっていると言われ、昭和時代のテレビシリーズや1990年代から2000年代にかけて放送された金曜ロードショーのテレビスペシャル版といったアニメを視聴していた人々からすると、銭形の印象は、ルパン一味をどこまでも追いかける人間離れした人物である一方、決定的なところで抜けているというギャグキャラの印象が強い。
また、ルパンが「とっつぁんじゃないと張り合いがない」と言い、当人も「ルパンがこんなことで死ぬわけがない」と言い放つなど互いに認めあう関係性を持ち、ひとたびルパンが命を落としたという状況に立ち会うと号泣する人情深いとの評価もあるだろう。
だが、原作における銭形は別人と言ってもいいほどにアニメと異なっている。原作とそれ以外で設定が異なる現象は「ルパン三世」に限ったものではないにしろ、中でも銭形は特に顕著な一例であると言える。
ルパンを追うことに執念を燃やすのは同様だが、使命のためならば自分の命を惜しまず、ルパンを殺しても構わないと考えるほどダーティな人物として描かれている。コミックでは、刑務所に送られたルパンが処刑される瞬間を喜んで待ちわびていたシーンもあり、「新・ルパン三世」の最終回においてはルパン一味をなんと無人島ごと爆破させている。
ただし、劇場版ではこうした原作の名残が幾分か残されており、第1弾『ルパンvs複製人間』では、「貴様の墓にこの手で戒名を刻んであるぞ」「必ずやルパンの息の根を止めてやる」といった発言もしている。「相変わらず殺気立ってんなぁ」とは冒頭でのルパンのセリフである。
宮崎駿が監督を務めた第2弾の『カリオストロの城』ではきわめて有能な警部として描かれており、モンキー・パンチ本人も「あれが正しい銭形だ」と評価したという(余談だが、本作によってルパンがメインヒロインを救い出すという構成が定番化しており、そのことについてはあまり良く思っていなかったようである)。
そもそも、銭形がギャグ担当のようになったのは、他のメンバーがシリアスキャラばかりだったため、アニメにて路線変更が図られたからだと言われている。とはいうものの、そんな作者でも細かい部分については少々おざなりになってしまった部分もある。
それは銭形警部の本名だ。
現在、銭形の名前は「幸一」ということで定着しておりほおぼ公式化しているが、過去には何度かブレており、『ルパンvs複製人間』では先祖と同じく「平次」となっていたり、また原作にてルパンに対し「平太郎」と名乗っている場面もある。
なお、これは第64話「義賊部部員」の中で見られるシーンであり、ここでは東西京北大学にてルパンが医学部、銭形が法学部という両者が同じ大学の先輩後輩関係という描写がされている。
では、定番化した幸一という名前になぜなったのかということだが、実は編集者のミスが原因だったと言われている。モンキー・パンチ本人は、当初銭形平次にあやかり「平一」と記したのだが、あまりに悪筆であったために編集者が「幸一」と読み間違えた。
それでも、原作にて作者自身が「平太郎」と再命名してしまっている理由は、単に忘れてしまったからであるとのこと。結果的に、ミスによってほぼ公式化されたような名前であるが、現在の担当声優が山寺”宏一”であるのはなんとも因果な話である。
因みに、1974年にルパン三世の初の実写化作品となる『念力珍作戦』というものが公開されており、本作では銭形の部下として大岡刑事・遠山刑事という登場人物がいる。名前からわかる通り、それぞれ大岡越前と遠山景元(遠山の金さん)の子孫であるが、奉行の部下的立場であるはずの岡っ引きだった銭形の子孫が現代で上下関係を逆転しているのはユニークな設定である。
【参考記事・文献】
ルパン三世と銭形警部は東西京北大学(東大)に通っていた!
https://kawaiiya.jp/lupin-the-thrid-zenigata-same-uni/
銭形警部
https://dic.pixiv.net/a/%E9%8A%AD%E5%BD%A2%E8%AD%A6%E9%83%A8
銭形警部のトリビア大放出!なぜルパン三世の理解者なのか?
https://ciatr.jp/topics/186026#index-9
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【文 ナオキ・コムロ】