遺伝子工学の発達により人類のクローン人間を”臓器の予備パーツ”として作れば、臓器移植問題は解決する。
そんな議論が度々されるようになってきている。確かに本人のクローンであれば内臓もうまく適応するだろうし、臓器提供者を待つ時間的ロスも解消する。
だが、もし将来クローン人間が誕生した場合、その人権はどうなるのだろうか。例えクローンであったとしても、もはや本体の人物とは別途の存在であり、その基本的人権は確保されてしかるべきである。
『撰集抄』には、かの名僧・西行が山中で修行をやっている時に人造人間を造ったという逸話が残されている。
因みにこの西行、なかなかオカルトチックな人物であり、上田秋成の名著『雨月物語』には、四国にある白峰宮を訪問した西行が、崇徳上皇の怨霊を慰霊したというエピソードが紹介されている。
ではどういう経過でどのような手法で西行は人造人間を造ったのであろうか。高野山の山中にて西行が友人の西住上人と共に修行していたときのこと、所用で西住が山を下りてしまった。孤独にさい悩まされた西行は、以前聞いた鬼が人骨を集めて人間を作る作法をまねて人造人間を作ってみることにした。
その方法とは誰もいない場所で、死人の骨を集め、頭蓋骨から足先まで順番に並べ、砒霜(ひそう)という秘薬を骨にまんべんなく塗り、骨と骨とを藤で繋ぎあわせ水洗いした。そして、14日間放置したあと、沈と香を焚いて反魂の術を行った。
だが、出来上がった人間は見てくれも悪く、人間のような声も出ず下手な笛の音のような奇妙な音しか発声出来なかった。一応人間の形をしているので壊すわけにもいかず、結局高野山の奥地に連れていき、そのまま捨ててしまった。
なぜ上手くいかなったのか納得がいかない西行は、人造人間を上手く作れる人物として噂のあった伏見前中納言師仲卿を訪問し、そのコツを尋ねた。するとその回答は、反魂術を行うには修行不足であることと、沈と香を焚くのではなく、沈と乳を焚いた方が良いというものであった。
この伏見前中納言師仲卿は、これまでも何人もの人造人間を造っており、中には朝廷で出世している者もいるが、その氏名を明かすと造った人間も、造られた人間も消滅してしまうので教えられないと言われたそうだ。
勿論これは史実ではなく、根拠となる『撰集抄』でさえも作者不詳の説話集に過ぎない。しかし、このようなSF的な説話が我が国に古くから語り継がれてきたという事実は、大変興味深いといえよう。
※写真はウィキペディアより
(山口敏太郎 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)