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劇作家「つかこうへい」、あの有名都市伝説を広めた人物だった!?

つかこうへいは、『熱海殺人事件』や『蒲田行進曲』といった代表的戯曲を世に送り出した劇作家である。アングラ寄りの作品を生み続け、アングラ第二世代の旗手として一大ブームをも巻き起こすほどの影響力を有した。

彼は、日本生まれの在日韓国人2世として生まれ、国籍も韓国であった。つかこうへいという彼のペンネームは、そうした在日韓国人という事情から「いつか公平」という願いを込めて名付けられたと言われているが、つか本人の著作によれば、中核派の学生運動家であった「奥浩平」という人物の名に由来しているとのことである。

また、つかこうへいの名が全てをひらがな表記であることについては、母親が読みやすいようにということ、そして漫画家のちばてつやのファンであることに起因している。

作風は、激情的なものが多く、特に初期はアングラ色が濃かったという。人によっては支離滅裂とも言える展開を繰り出し、大音量、ギラギラとした照明、目まぐるしい演者のアクションといったものに満ちていた。宮藤勘九が初めて彼の作品を目にした際、役者が必死な形相で叫んで言葉が聞き取れず、物語についていくのがやっとだったと回想している。

また、演者であった阿部寛は、「劇場じゃなきゃ見られない狂った人間を(客は)見たいんだ。もっと狂え」と叱咤されたという。つか自身も、「間だの芸だの要らない」と公言し、凄まじいエネルギーと勢いを作品に込めていたことが伺える。

演劇界に多大な影響を与えたつかは、2010年に62歳で死去した。肺癌を患い闘病していた彼は死を受け入れ、その遺書には日本と韓国の間にある対馬海峡あたりで散骨して欲しい旨が綴られていたという。

晩年の彼は、当時吹き荒れていた従軍慰安婦問題のさなかに取材をし、悲惨さを調べようとしたものの思惑が外れ、慰安婦と日本兵の恋などもあり、慰安婦の主流も日本人だったことをその時に知ったと、自身の知識不足を認めた発言をしていた。

ところで、現在でもにわかに囁かれているとある有名な都市伝説に、つかこうへいが絡んでいるものが一つある。多くの人が耳にしたことがあるだろう、夏目漱石が「I love you.」を「月が綺麗ですね」と訳したというあの都市伝説だ。

テレビドラマでも引用されるほどに知られるようになったこの都市伝説は、今もってその出典がわかっておらず、漱石が本当にそのような発言をしたという証拠が見つかっていない。では、この話がいつごろから出回ったものであるかについては、ある一つの書籍がその大元になっているのではないかと言われている。

その書籍は、1978年に出版された英文学者の小田島雄志(おだしまゆうし)の著書『珈琲店のシェイクスピア』だ。この著作内では小田島とつかの対談「平戸間から見たシェイクスピア」が収録されているのだが、そこでつかが「漱石はアイラブユーを『月がとっても青いから』と翻訳した」と発言している。

対談という形式であるためか、このつかの発言についても出典は明らかにされていない。すでに、当時70年代に囁かれていた噂を又聞きして発言したのか、何か別のエピソードを勘違いして発言したのか、もはや確認するすべはない。

ただ、一部ではこのような背景から「漱石の逸話はつかこうへいが広めた(作った)」という話まであるようだ。結局、つかのこの発言内容の真偽についてさえ今となってはわからないままとなっている。

【参考記事・文献】
夏目漱石の「月が綺麗ですね」にまつわる考察と中勘助 『銀の匙』
https://kanimaster.hatenadiary.org/entry/20100327/1269622660
夏目漱石は本当に「I LOVE YOU」を「月がきれいですね」と翻訳したのか? TVドラマが続々と引用…
https://www.sankei.com/article/20151204-ZCG2OYAC6VJFVOT5673NM46DNU/
つかこうへい
https://dic.nicovideo.jp/a/%E3%81%A4%E3%81%8B%E3%81%93%E3%81%86%E3%81%B8%E3%81%84

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【文 ZENMAI】

画像『つかこうへい正伝Ⅱ 1982-1987 知られざる日々