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頑固者!「夏目漱石」、あの都市伝説は本当か?

夏目漱石は、『吾輩は猫である』をはじめとした日本を代表する小説家として知られ、かつて千円紙幣の肖像画にも採用された人物としても有名である。

彼の「漱石」というペンネームは、「漱石枕流」という中国故事が由来となっており、「自分の誤りを指摘されても直そうとしない」「負け惜しみでこじつけをする」という意味を持っている。元々は、俳人の正岡子規が使用していたペンネームの一つであったと言われているが、漱石自身その名にたがわぬ逸話がいくつか残されている。

彼は、英語教師を務めていた経験を持っているが、ある時生徒から「先生の言っていることが辞書の意味と違う」と指摘された際に、「辞書の方が間違えているから訂正しておきなさい」と言い放ったという。またある時には、片腕の無い生徒に対してそうとは知らずに「腕を出しなさい」と注意をしたところ、その生徒の知人から「彼は腕が無いんです」と指摘され、「私だって無い知恵を絞り出しているんだ」と答えたという逸話もある。

彼の逆上エピソードは多数あり、また、タバコが無いことがわかった途端にタバコ盆を放り投げたり、持参していた懐中時計が止まってしまっていたことに気付いた際には時計を投げ捨てるなど、短気であった性格がうかがえる。大学の図書館で調べ物をしていた時に、事務員たちの話し声に激怒し「静かにしろ!」と怒鳴り、さらには後日学長へ抗議文書まで送ったこともある。

その激高は相手を選ばないようであり、ある時同じく小説家の芥川龍之介と二人で銭湯に行った際、隣にいた屈強な男の湯の浴び方が手荒いことに怒り、「馬鹿野郎!しぶきが飛ぶだろ!」と怒鳴ったという。その後、特におおごととなったという話は無いものの、芥川にとっては非常に焦った一コマであっただろう。




イギリス留学以来、精神的に病んだと言われている彼は、時に妻や子供にも暴力を振るっていたが、精神が落ち着いている時は非常に優しく、家族・友人思いな面も見られたという。それもあってか、近年になって強く注目された漱石の逸話に、彼が「I love you.」を「月が綺麗ですね」と訳したというものがある。

いくつかの作品でも漱石のエピソードとして引用されたこともあるこの訳については、一方で当初からデマではないかとの疑いの目も寄せられた。

1970年代にはすでに存在していたと言われており、『珈琲店のシェイクスピア』(小田島雄二 1978)や『あなたもSF作家になれるわけではない』(豊田有恒 1979)には、「月がとっても青い」というフレーズで訳したという形での掲載が見受けられる。

結局のところ、この漱石の「月が綺麗ですね」都市伝説については、おおもとの出典もわかっておらず、どのような経緯で広まっていったのかについてもはっきりしていない。

1908年の漱石の講演「創作家の態度」にて「月が眉のよう」という表現を例に文学表現の解説をしているというものや、漱石文庫の中に「I love you ハ日本ニナキ formula ナリ」というメモが残されているということから、これらの情報が複合して形成された逸話である可能性もある。

因みに、70年代の文献で見られるフレーズ「月がとっても青い」は、菅原都々子による1955年の楽曲タイトル 「月がとっても青いから」 がオリジナルであると考えられる。

彼の授業を受けていた人たちによって細々と語り継がれていたものが、ある拍子に表立った実話ではないかとの説もあるが、一方で前述したような彼の性格上似つかわしくないといった意見も見られる。いずれにせよ、漱石のエピソードであるとの断定には至らないのである。

【参考記事・文献】
夏目漱石はなぜ天才なのか?凄い逸話やエピソードから分析!
https://gakumaji.com/archives/915
夏目漱石の性格は?影響を与えた人物やエピソードと共に紹介
https://rekisiru.com/6143
夏目漱石がI love youを「月がきれいですね」と訳した説はガセ?出典をめぐる検証が興味深い
https://togetter.com/li/1948142

【アトラスラジオ関連動画】

【文 ナオキ・コムロ】

画像 ウィキペディアより引用