ロシア睡眠実験とは、旧ソ連時代に行なわれたと言われている人体実験。いわゆる、都市伝説のたぐいであり、海外においてはクリーピーパスタ(インターネット上で流布される説話や画像など)の中でも特に有名なものの一つとして知られている。
時代は1940年代のこと。ソ連のとある実験施設において「眠らない兵士」を生み出すための研究が行なわれていた。そこで開発されたのが、眠気を奪う一種の覚醒作用のあるガスであった。実験対象に選ばれたのは捕虜となった囚人5名。科学者たちは彼らを密閉された室内に閉じ込め、保存食、トイレ、ベッドなどといった必要最低限のものは用意されながらも、その室内は酸素とガス状の覚醒剤が放射される仕組みとなっており、終始観察が行なわれた。
彼らには「30日間眠らなければ解放する」という約束も交わされたが、実際のところこれは虚偽の約束であったという。
異変が現れ始めたのは、実験が5日目を超えたころからである。誰もいないはずの空間に話しかけたり自分自身に話しかけたりといった妄想症のような状態が見え始めたのである。しかし、このこと自体は想定内であったこともあり、継続して実験は続けられた。大声で叫び続ける者が現れだすようにもなった。
10日ほど経ったころ、彼らの反応を確かめるために科学者たちは、「解放してやる。ドアを開けるから全員床に伏せろ」という指示を命じた。しかし、「解放されたくない」という予想外の返答があったことで、奇妙に思った科学者たちがその後に部屋を訪れてみると、そこには死んだ被験者の体から取り出され並べられた内臓や、その肉を食していた者という凄惨な現場であった。
囚人たちは「ガスをくれ」と叫びながら暴れ、ついには絶句した科学者たちが兵士を呼んで制圧した。これによって被験者全員が死亡することとなったが、この出来事を目撃したことがトラウマとなり自殺した者すらいたという。
冒頭でも触れたように、このストーリーは10年ほど前から出回った、最も有名な都市伝説の一つとして語られる。拡散されることによって内容は様々に付属設定が加えられていき、また息絶えていない最後の一人に対して「お前は一体何なんだ！」と問うと、「私はお前たち自身だ」から始まるおぞましい返答を繰り出し、恐怖を残して射殺されるという形で幕を閉じる。
「情報源は不明」ということを最後に置き、またその実験のものと思しき写真・画像も用意されることから、いかにこの都市伝説の影響力が強いかが伺える。
都市伝説が、「本当にあったのではないか」と思わせられるのは、すべてが嘘ではなく事実の部分も用意されているためである。このロシア睡眠実験においても、第二次大戦中にメタンフェタミンという覚醒剤が軍の士気向上や疲労回復のために支給されていたという事実もある。
また、1894年にはマリア・マナセイナという女性の心理学者が、睡眠不足を研究する中で実際に睡眠実験を行なったことがある。ただし、対象となったのは人間ではなく小犬であり、これによれば小犬たちは睡眠を奪われた数日以内には皆命を落としたという。
さらに、致死量致死性家族性不眠症と呼ばれる「眠ることができなくなる」疾患が、過去にもいくつか症例があり、治療法も確立されておらず致死率100%として恐れられている。このほか、1960年代に不眠耐久を行なったラジオDJが精神に異常をきたしたという実例もあることから、不眠に対する恐怖は身近なものへと感じられやすいものとなっている。
ロシア睡眠実験は、ソ連という不透明で謎めいた時代背景を舞台にしたと同時に、睡眠を奪われるという我々が身近で想像を抱くことができる実際的な怖さを兼ね備えた、巧妙な都市伝説であると言えるだろう。
【参考記事・文献】
【ロシア睡眠実験】30日間眠らせない狂気の人体実験がヤバすぎる
https://world-book.org/urban-legend/russian-sleep-experiment-creepypasta/
ロシア睡眠実験の真相！都市伝説ではなかった？
https://www.slept.jp/urban-myths/russian-sleep-experiment/
ロシアの睡眠実験と私たちが都市伝説を信じる理由
https://softsuki.com/science/isono/the-russian-sleep-experiment-and-why-we-believe-in-urban-legends-75452
「ロシア睡眠実験」とは何だったのか
https://jp.rbth.com/lifestyle/81775-roshia-suimin-jikken
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【文 ナオキ・コムロ】
